解剖学の歴史を調べると、解剖学の創始者と言われているのはヴェサリウスですが、その直前レオナルド・ダ・ヴィンチもかなり詳細な解剖をやっています。ちょうど今ダビンチ展が東京で開催されていますが、その中にも身体に対する彼の考え方のコーナーもあります。しかし、なぜヴェサリウスが創始者であるかというと、ダ・ヴィンチは自分のやりたいところだけをやっていたのに対し、ヴェサリウスは骨格から筋肉、ありとあらゆる体のパーツ、システムを全て観察しました。このように解剖学というのは身体を網羅し、考察しなければ何の意味もありません。
本学獣医学教育の目的は臨床獣医師の育成です。臨床獣医師となる人は我々の作った「カリキュラム」といわれる確実な教育の階段を一歩一歩しっかりと登る事で、目的をはじめて達成することが出来ます。私は基礎教育のカリキュラムの中で、基本となりかつ最も多くの時間がつぎ込まれている獣医解剖学の教育すなわち肉眼解剖学、組織学の講義と実習を担当しています。大学教育の本質は、単に高校生までの勉強の延長のように教科書に記載されていることや講義・実習で習ったことを、正確に覚え理解するような受け身の学習ばかりでなく(特に解剖学は暗記中心の学問だと学生には誤解されています)、勉学を進めていく上で行き着く現代医学で明らかにされていない多くの疑問点に探求心を抱く事だと思っています。実習はできるだけ学生達の力で出来るようにしています。この解剖実習を通して、学生達の考え方が、常にマニュアルの答えが用意されているというモノから、自分の頭で考えて答えを出さなければならないというモノへと変わっていく事を期待しています。
1.肉眼解剖学 肉眼やルーペ程度の拡大による観察で、対象の形態、構造を記述する学問です。日本では1771年の杉田玄白らが腑分けを見学したことが有名です。肉眼解剖学はその意義・性質上、これまでの通念が覆されたり、その記述が時代遅れになる、といったことはありません。現在の獣医解剖学では多種の動物(酪農学園大学ではウシ、ウマ、イヌ、ニワトリ)を対象にした肉眼解剖学が専門課程の初期段階で必須科目とされています。それは解剖実習と称して、ピンセット、メス、はさみなどを使い、動物の諸構造(骨、筋、血管、神経、内臓など)を剖出し、観察・記録しています。
*新しい技術(プラスティネーション標本)の教育への利用
「人体の不思議展」で提示されているプラスティネーション標本はハイデルベルグ大学のハーゲンス博士が開発した解剖標本の新しい技術です。身体の3分の2は水分で、それが全てシリコンに置き換えられていると考えてください。これにより、標本そのものを実際手にとって扱え、生きている時と同様の器官、臓器の形状とほぼ同じ弾力を保つようになりました。獣医解剖学教室では多くのプラスティネーション標本を作製し、実習で用いており、いつでも疑問を持ったときにそれを用いて自分で観察し解決できるように工夫しています。
2.顕微解剖学 肉眼では観察できない微細な構造について、顕微鏡を駆使して調べ、構造を記載する学問です。各器官(臓器)内の構造の特徴を、それを構成する細胞のレベルまで、あるいは細胞内小器官のレベルまで解明するものです。組織実習と称して、顕微鏡を使い動物の諸組織を観察・記録します。
教室では、細胞外マトリックスに関する研究を行っています。細胞外マトリックスは近年、組織細胞分化、増殖、再構築時に重要な役割を担っていることが確認されています。当教室では、運動器の細胞外マトリックス成分(特にコラーゲンとプロテオグリカン)の損傷時の動態変化を形態学的、組織化学的に検索しています。それを明らかにする事で細胞外マトリックス成分の主体であるコラーゲンを用いた再生医療への道を考えています。現に、今まで結合組織の脆弱化はコラーゲンペプチドの経口摂取で予防できる事を明らかにしました。また、角膜の再生促進も明らかにされてきています。今後より研究を進め獣医再生医療分野でのコラーゲンの応用を模索しています。
何よりも臨床に寄与できる事です。また、卒業生のほとんどが臨床に進む現状の中で、学生の中から基礎獣医学の研究に興味を抱き、国際的に活躍する優秀な研究者、特に臨床に関与する研究者も育てていきたいと思います。