本日、農食環境学群340名、獣医学群191名、以上、大学合計531名、酪農学研究科18名、獣医学研究科11名、以上、大学院合計29名、合計560名の学位記を授与された皆さん、酪農学園大学の教職員を代表し、学長として心よりお祝い申し上げます。晴れて今日の日を迎えた皆さん、ご卒業、本当におめでとうございます。
皆さんが入学された頃は、新型コロナウイルス感染症の影響が未だ色濃く残り、思い描いていた大学生活とは異なる制約の中で、試行錯誤を重ねてこられたことと思います。しかし、その特殊な環境下でも学びを止めず、人と人が繋がることの重要性を実感し、見事に成長を遂げた皆さんのたくましさに、私は深い敬意を表します。私も皆さんと同じく、この酪農学園大学の卒業生です。本日は、人生の少し先を歩く同窓の先輩として、そして学長として、これから激動の社会へと船出する皆さんへ、私のありったけの熱いエールを贈りたいと思います。
皆さんがこのキャンパスで学んできた根幹には、創立者である黒澤酉蔵先生らによって提唱された「三愛精神(神を愛し、人を愛し、土を愛す)」という建学の精神があります。そして、「健土健民」という実学教育の理念のもと、酪農をベースとした「循環農法」を追求してきました。これはまさに現代のSDGsに通じる、極めて普遍的な理念です。皆さんは、本学の農場での実習などを通じて、土にまみれ、命の温もりに触れながら、この理念を体当たりで学んできました。どんなに社会のシステムが変わろうとも、「人を愛す」という人間としての基礎がなければ物事は前に進みません。自分を含めた全ての人を受け入れる愛を持ち、社会の課題に立ち向かう姿勢を、どうか生涯忘れないでください。
さて、皆さんがこれから歩み出す日本の未来は、急激な人口減少を伴う激変の時代です。ここで少し、皆さんに問いかけたいと思います。AIやロボットテクノロジーが爆発的に進化し、効率化の波によって、会社から人がいなくなる。もしかしたら、人間そのものが「働かなくなる」時代が来るのかもしれません。皆さんは、そんな未来を想像したことはありますか? さらに深刻なのは人口減少です。ここ北海道でも、近い将来、多くの市町村が水道や道路といったインフラを維持できなくなり、人々を別の場所へ移住させざるを得なくなる日が来ると予想されています。日本の食料庫である北海道に、いくら広大な耕地があっても、人が消え、街がなくなれば、農業もあっけなく破綻してしまいます。そんな恐ろしい光景、皆さん想像できますか?
では、私たちの本来のフィールドである「農業」の場合はどうでしょう? 世界中の大企業でホワイトカラーの仕事が消えていくのとは、少し事情が違います。ここで皆さんに、日本の農業のリアルな数字をお伝えします。2015年に180万人近くいた農業就業人口は、2024年にはなんと110万人にまで激減しました。しかも、その平均年齢は69歳です。年齢構成を見ると、60歳以上がおよそ100万人を占めています。一方で、40歳未満の若手は、全国で5万人足らずしかいません。 なぜ、こんなことになってしまったのか。私は、農業というものを時代に合わせて革新してこなかった、そして次世代に「農業はワクワクする産業だ」と伝えきれなかった我々関係者や、農業系大学にも大きな責任があると考えています。
ただ、今日このお祝いの席で、皆さんに悲観してほしくてこんな話をしているわけではありません。全くの逆です。これから60歳以上の先輩方が現場を離れていく中で、人間が生きていくために不可欠なこの産業が急激に萎んで消え去るわけがありません。つまり、これから現場に残る10万人の若手と、今日ここから巣立つ皆さんで、この国の食を根底から支え、圧倒的に儲かって、豊かな暮らしを作り上げる「大チャンス」が到来しているということです。
農業の現場には、全体を見渡し決断を下す「親方」――つまり、皆さんのような血の通ったリーダーが絶対に必要です。皆さんが親方となって、AIやロボットを優秀な相棒として使いこなす時代がもう目の前に来ています。これまで過酷だった作業も圧倒的に効率良くできるようになり、間違いなく農業に大きな革新がもたらされます。ITやシステムが止まっても人間は数日耐えられますが、「食」が止まれば人は生きていけません。皆さんには、最先端の技術を武器にして、新しい農業の仕組みを現場で切り拓くトップランナーになっていただきたい。過酷な労働というイメージの「酪農」から、効率化と高い付加価値によって人生の豊かさを生み出す「楽農」へと、皆さん自身の手で変えていくんです。そして何よりも、皆さん自身が豊かな暮らしを実現し、誰よりも幸せになってください。皆さんが笑顔で、儲かって、最高に楽しく働く姿こそが、次の若者たちに伝える最大のメッセージになります。
正直に言いましょう。これからの現場の進化はすさまじく、これまでの大学の枠組みでは対応しきれないほどのスピードで一気に進んでいきます。だからこそ、本学もここから一気にギアを上げ、農業そのものを革新していく方向に大きく舵を切ります。 皆さんが現場で新しい課題に直面した時は、いつでもこのキャンパスに学びに戻ってきてください。そして同時に、現場の最前線で泥臭く、かつスマートに闘う皆さんから、我々大学側が教わることも大いにあるはずです。いや、むしろ皆さんから学びたい。大学と皆さんで互いに知識をアップデートし合い、共にこれからの新しい「楽農」を創り上げていこうではありませんか。
これから続く長い道のりの中で、壁にぶつかり、心が折れそうになることもあるでしょう。そんな時に思い出してほしいのが、酪農学園大学の「同窓生としての絆」です。本学の卒業生は全国各地に広がり、社会を下支えしています。迷った時、苦しい時は、決して一人で抱え込まず、全国の先輩や仲間に声をかけてください。同じキャンパスで「健土健民」を学んだ同窓生たちは、必ず皆さんとつながり、惜しみない助けの手を差し伸べてくれます。それが、酪農大の最大の良さであり、強みです。 そして、社会の問題を解決する際は、相手を論破する「議論」ではなく、互いを尊重し合う「ダイアローグ(対話)」の力を大切にしてください。失敗を恐れず「多元実行」の精神で挑戦し、そこから学び続ける限り、皆さんの未来は必ず開けます。
最後になりますが、本日ご列席のご家族、保護者の皆様に、心よりお祝いを申し上げます。手塩にかけて育てられたご子息、ご息女が、本日こうして立派に成長し、学び舎を巣立つ姿に、感慨もひとしおのことと存じます。これまでの本学の教育に対する温かいご支援とご協力に、教職員一同、深く感謝申し上げます。誠にありがとうございました。
卒業生の皆さん、皆さんの豊かな人生を創り上げるのは、他でもない皆さん自身です。皆さんの前途が、笑顔と喜びに満ちた、輝かしいものとなることを心より祈念いたしまして、私からの熱いエール、贈る言葉といたします。
卒業、本当におめでとうございます。皆さんの大いなる飛躍を、心から期待しています。

2026年3月19日
酪農学園大学
学長 岩野 英知
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