NEWS NO.162(2025年度)
馬医療の最前線で学ぶ ― 専門性と現場力を育てる教育とは ―
(獣医学類 馬医療学ユニット 都築直 准教授、森山友恵 講師)
2025年4月、産業動物や大動物教育の一分野としてではなく、馬医療を専門として扱う研究室として、獣医学類に全国唯一となる「馬医療学ユニット」が誕生し、まもなく1年を迎えます。
馬医療の第一線で活躍してきた都築直先生および森山友恵先生に、この1年間の活動の様子や馬医療の魅力、そして本学で学ぶ意義について話を伺いました。

都築直 准教授にインタビュー
――馬医療の分野には、どのような難しさや魅力がありますか。
日本における馬医療はその多くが競馬産業関係であり、その産業に関わる動物という観点から治療に対しては経済性が当然重視されます。時には経済的な理由での安楽死などの判断も必要になります。その反面、価値が高くいくら金銭をかけてもいいから治療してほしいという馬や、ペットとして飼われている馬の診療という事にも遭遇します。このように牛などの産業動物としての側面、犬や猫などの伴侶動物としての側面、両方を持っているのが馬の診療の特徴だと思います。この点が難しくもあり、面白くもあると感じます。
また、多くの馬は「アスリート」であるため、馬の獣医療を行っているとスポーツ医学的な内容にも多く触れます。他の動物種ではスポーツ医学的な内容に触れることは稀だと思うので、スポーツ医学的な内容に興味がある人にとってはとても魅力的な分野だと思います。

――競馬産業と畜産業はどのように関わるのでしょうか。
競馬産業は、毎年多額の資金が動く大規模な産業であり、その売上の一部は畜産業の振興にも活用されています。競馬産業を支える獣医師を育成することは、競走馬の健康と安全を守ることにつながり、競馬産業の安定化に寄与します。
獣医師の専門性によって競馬産業の安定が支えられることで、競馬の売上が馬産地や畜産振興へと還元され、日本の畜産業を支える好循環が生まれます。
――馬の獣医師で今大きな問題となっていることは何なのでしょうか。
馬業界は現在慢性的な人手不足です。それは獣医師も同じであり、慢性的な獣医師不足も発生しています。人材確保は業界全体での課題であり、インターンの積極的な受け入れや獣医師就業支援ポータルサイトの開設などの試みも始められています。 しかしながら、人手不足の解消には現状至っておらず、人材確保が急務の課題であると言えます。
――馬の獣医師を増やすためにはどうすればよいのでしょうか。
馬業界の獣医師不足の一因として、大学で馬の臨床について教育されていないことがあると私は思います。日本の獣医系大学において馬の教育、診療体制を備えている大学は少ないです。
馬業界に進む人は現状、大学入学前から馬の進路を志している学生が大半であると思います。馬の進路に強い志を持っている学生が、卒業するまで意欲を維持できるような教育環境がまず必須だと考えます。 また、大学入学時点では馬業界の進路に興味を持ってくれていなかった学生が、馬業界に興味を持ってもらえるようにすることも大切だと感じます。教えられていないことに対して学生が興味を持ってくれることはありません。その意味でも馬の教育環境の整備は必須であると私は考えます。

――本学の馬の教育には、どのような特色がありますか。
本学は2026年3月時点で、日本国内の獣医系大学において唯一の馬医療の名前を冠とした研究室を開設しております。馬を専門に扱う研究室を備えているのが大きな特徴と言えます。
先に述べた内容と重なりますが、実際の馬の症例に触れながら学ぶことができる実習環境を備えた大学は、国内でも限られています。本学では、北海道という恵まれた立地を生かし、実際の馬を用いた臨床実習を実施しています。これにより、将来、馬の診療に携わる獣医師として求められる知識と技術を、実践的に身につけることが可能です。 また、今後日本最大の馬産地である日高地方、十勝地方にあるばんえい競馬内の診療所などとも協力し、より馬の臨床教育を充実させていきたいと考えています。

森山友恵 講師にインタビュー
――これまで馬の臨床に携わる中で、特に大切にしてきた姿勢や考え方を教えてください。
馬だけを診ずに、馬の管理者の言葉や考えをよく聞くよう心がけています。診療方針の選択肢を多く持ち提示し、馬だけでなく人も納得できるような診療をしたいです。また、治療で終わらず予防、飼養管理に関する事まで考えるようにしています。
――馬の診療では、どのような点に難しさや魅力を感じていますか。
馬の飼養目的は競馬に限らず、畜産、福祉、ペット等多種多様なため、飼養環境が違えば病気も違い、何より馬にかかわる人の考え方が違います。そのため同じような病気でも選択される治療法が違います。何に重点を置いて馬の苦痛を取り除くか、その選択が難しいですが、それを決定するため、関係者の方々と共に取り組むチームワーク、コミュニケーションが魅力だと思います。

――先日「認定馬臨床獣医師」の資格を取得されました。そのご経験は、学生が馬医療を学ぶ上でどのような学びにつながるとお考えですか。
実は馬以外の仕事をやっていた期間があったので、昨年馬診療科に着任し、自分自身の学び直しと実力確認のために受験しました。日本で馬の臨床実習ができる大学は少なく、講義のみで学ぶ学生が多いですが、馬の臨床経験がある獣医師が臨床実習を行うことは教科書で学んだ知識と実際の症例における診断プロセスをリンクさせるのを助けたり、馬に限りませんがその社会経験が多様な進路の可能性を具体的に示すことができ、学生の将来ビジョンづくりを支援できると考えます。
――馬医療を志す学生には、在学中にどのような経験を積んでほしいとお考えでしょうか。
講義や臨床実習を通して馬に限定せず幅広い知識を身につけ、一つ一つの症例を深く考察することを積み重ねてほしいです。馬の症例数が特に多い地域ではありませんが、本学では馬のほか犬・猫・エキゾチック・牛・豚等様々な動物種の症例を経験できます。在学中に動物種による違いまたは共通点に触れてほしいです。馬といっても外科や繁殖など専門性が分かれることもありますから、興味があることは動物種を飛び越えて積極的に学び関わることで、自分の得意な分野が見つかると思います。

お2人からのメッセージ
――馬臨床獣医師を目指すこれからの方々へ、メッセージをお願いします。
都築直 准教授
馬の獣医師は大変なことが多いのも事実ではありますが、他の動物では経験できないような面白いことも多々あります。興味がある方は是非挑戦してみて欲しいと思います。そして馬の教育環境を備えた本学で学び、馬の医療を支える獣医師になってほしいなと思います。
森山友恵 講師
私は大学に入るまで全く馬を触ったことがないところから始めました。馬に興味があって、馬の命と真摯に向き合う仕事に魅力を感じている方には、ぜひ挑戦してほしいと思います。


【関連】
◆獣医学群獣医学類 都築直 准教授(馬医療学ユニット)
https://www.rakuno.ac.jp/teacher/25982.html
◆獣医学群獣医学類 森山友恵 講師(馬医療学ユニット)
https://www.rakuno.ac.jp/teacher/37060.html
◆酪農学園大学附属動物医療センター 馬診療科
https://amc.rakuno.ac.jp/hospital/companion_animal_horse.html
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