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2026.07.13
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未来型の牛舎は、どう設計されたのか ― 給餌から考える「未来の酪農」 ― 循環農学類 土井和也 講師

ニュース

NEWS No.58(2026年度)
未来型の牛舎は、どう設計されたのか
― 給餌から考える「未来の酪農」 ―

本学では、教育・研究・地域連携のさらなる高度化を目指し、「農場Renewプロジェクト」として新牛舎の整備を進めております。新牛舎では自動給餌システムの導入が予定されていますが、その背景には単なる省力化だけではなく、飼料価格の高騰や環境負荷低減など、これからの酪農が直面する課題があります。

今回は、家畜飼料の専門家である循環農学類の土井和也講師に、新牛舎と「未来の酪農」の関係について伺います。

循環農学類 土井和也 講師

―― 新牛舎では自動給餌システムが導入されるとのことですが、従来の給餌方法と比べて、どのような変化がありますか。

本学の牛舎では1日1回(夏場は1日2回)、TMR(粗飼料と濃厚飼料を混ぜ合わせた飼料)を給与しています。給与された飼料は1日中飼槽にあるため、気温が高い時期では二次発酵が生じ栄養価が低下してしまいます。飼槽での栄養価の損失を少なくするためには、頻回給餌が考えられますが、多くの労働力が必要となります。新牛舎に導入される自動給餌システムでは1日8回少量ずつ給与することが可能となるため、給餌作業に係る労働力を省力化しつつ、乳牛は常に新鮮な飼料を採食することができ、飼槽での栄養価の損失も少なくなることが考えられます。


―― ロボットが最適なタイミングでこまめに餌を寄せたり供給したりすることで、牛の健康状態や消化吸収、乳質にはどのような変化が期待されますか。

常に飼槽に飼料がなければ牛はストレスを感じてしまいます。もし飼槽に飼料がない状況で、飼料が新たに給餌されると、固め食い(一気食い)が生じてしまいます。一度に多くの飼料が反芻胃内に入ると発酵が急激に進みます。その結果、乳量や乳質が低下する可能性があります。また、牛は選び食いをするため、飼料を鼻で外に押しやり、飼槽に飼料はあるのに、牛の口が届かず採食できない状態が生じてしまいます。これも固め食いの原因になります。自動給餌機によるこまめな給餌、餌寄せは飼槽に常に飼料がある状態になりますので、牛のストレスは少なくなり、乳量や乳質も安定することが考えられます。


―― 全自動化によって、牛たちは24時間自由に餌を食べられる環境になるのでしょうか。人間でいう「夜食」のように、夜中に食べに来る牛もいるのですか。

基本的には、牛は夜間に飼料を食べることはあまりしません。大学で24時間行動観察を実施した時にも、夜間では反芻行動や休息行動が多かったです。一方で、夏場など暑い時期であれば、気温が高くなる昼の採食時間が減少するため、朝や、夜間に採食する時間が増えることがあります。


―― 一方で先生は、給餌システムそのもの以上に、「どのような飼料を与えるか」が重要だと考えられているそうですね。現在の酪農業界では、飼料をめぐってどのような課題がありますか。

近年では、世界情勢や円安の影響で飼料価格が高騰しています。日本は輸入飼料への依存度が高いため、飼料費の高騰に伴い経営コストが高くなり、酪農家の収入が減少してしまいます。また、輸入飼料依存体系では、海外で生産された飼料中に含まれる窒素やリンなどが日本国内に蓄積してしまうため、環境への負荷も大きいということが言われています。


―― そうした課題に対応するためには、どのような取組みが必要になるのでしょうか。

やはり輸入飼料への依存を少しでも減らす必要があります。そのためには、濃厚飼料を少しでも削減する必要があり、酪農においては、栄養価の高い粗飼料生産が重要であると考えています。粗飼料の栄養価を高める方法としては、飼料作物(デントコーンや飼料稲)の作付けを増やす方法もありますが、草地基盤が十分にある北海道などでは、牧草を早刈りする方法も考えられます。早刈りすると出穂期で刈り取った時と比べ、生産量は低下しますが、栄養価は向上します。そのため、飼料中の濃厚飼料の割合を減らし、粗飼料の割合を増やすことができます。高栄養価な牧草生産には早刈りだけでなく、定期的に草地更新を行い雑草の割合を低くする必要もあると考えます。

また、高栄養価な牧草が生産できても、貯蔵することができなければ意味がありません。貯蔵中のロスを少なくするためにも、サイレージ調製時では原料草の水分含量の調節や、必要であれば適切な添加剤を利用することも重要です。

―― 本学では以前から、草地更新や、堆肥・消化液を活用した施肥などにも取り組まれてきましたが、こうした取組みには、どのような意義があるのでしょうか。

本学では持続可能な循環型農業を実践しています。その実現のために、毎日排出されるふん尿を堆肥や消化液にして、窒素源を圃場へ戻しています。堆肥や消化液を利用することにより、化学肥料の使用量を少なくすることができるため、環境負荷の低減にも繋がります。

草地ではオーチャードグラスやチモシーなどの永年牧草を栽培しています。草地には雑草が侵入しますので、使用年数が増えるとともに雑草も増えてしまいます。雑草は牧草と比べ生産量や栄養価が低いだけでなく、ウシの嗜好性が低い雑草もあるため、雑草が増えすぎた草地では良い飼料が作れなくなります。そのため、本学では定期的に草地更新を行い、ウシにとって良い牧草が生産できるようにしています。


―― 飼料価格の高騰が続く中で、この自動給餌システムは、「少ない飼料で効率よく乳を生産する」という“飼料効率”の向上にもつながるのでしょうか。

自動給餌システムにより多頻度の給餌が可能となるため、ウシは常に新鮮な飼料を食べられる環境となります。そのため、乾物摂取量が増加し、乳量が増える可能性が期待されます。また、多頻度給餌により、ウシの固め食い(一気食い)が減少することが考えられますので、反芻胃内環境が安定し、飼料の消化率が向上することが期待できます。


―― 「牛のゲップが温暖化に影響する」という話題もありますが、餌の設計や給餌方法の工夫によって、環境負荷を抑えることも期待できるのでしょうか。

牛のゲップ中に含まれるメタンの低減は給餌方法よりも、飼料による効果が大きいです。メタンを低減する飼料としては、カシューナッツ殻液や海藻類などが挙げられます。これらの飼料源を飼料として利用することで環境負荷を抑えることは可能です。一方で、自動給餌システムの導入によって飼料効率が向上することにより、排出されるふん尿の量を低減できる可能性があります。排出されるふん尿が少なくなるということは、飼料中に含まれる窒素などの排出量が減ることに繋がるため、環境への負荷を抑えることになります。


―― 新牛舎の整備によって、これまで本学が取り組んできた研究や実践は、今後どのように発展していくと考えていますか。

ロボット牛舎では乳量など個体ごとのデータが入手できるようになります。そのデータを活用することによって、教育では牛群の管理方法だけでなく、個体ごとの管理方法も教えることができるようになると思います。また、今までは牛の状態を外見や行動から評価をしていました。この評価方法には評価に個人的なばらつきや、多くの経験を積む必要があります。今後は、データも合わせて評価することにより、牛の状態が分かりやすくなるだけでなく、学生側からも良い状態の牛を判断しやすくなる(良い牛の基準が分かりやすくなる)ことが期待されます。


―― この全自動牛舎が稼働した後、土井先生ご自身が研究者として、特に注目したいデータや明らかにしたいことはありますか。

まずは多頻回給餌がウシの採食行動や栄養の消化吸収に及ぼす影響を研究してみたいと考えています。多頻回給餌が良いと言っても、多頻回過ぎると牛にストレスがかかるだけでなく、飼料のロスに繋がる可能性があるのでは?と考えることがあります。そのため、まずは自動給餌機において最適な給餌回数や方法を研究したいと考えています。


―― 今回、リックス株式会社が中心となり、本学も参画した国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構の令和7年度補正予算スマート農業技術の開発・供給に関する事業が採択されたと伺いました。こちらの取組み内容と、こうした産学連携の可能性について教えてください。

本事業では「小型・低コストの餌寄せロボット」の開発に関わる研究を行う予定です。従来の餌寄せロボットは海外製であるため、ロボット自体も大きく、通路幅が広い牛舎でしか利用することができません。日本では中小規模の酪農家が多く、繋ぎ飼い方式の牛舎などでは通路が狭く、餌寄せロボットの導入が難しい現状にあります。そこで、リックス株式会社さんが開発された小型の餌寄せロボットを用いて、本学では寒冷地の特に冬場においても十分な餌寄せ効果を発揮するかなどを評価する予定です。

日本では少子高齢化が進んでおり、畜産業や酪農業においても同様の傾向にあります。今後は、人手不足の解消や労働負担を軽減するためにも、スマート技術は必須になってくると考えます。本学では60頭規模の搾乳牛がおり、実際の家族経営の規模と近い農場となっています。そのため、家族経営において労働力を省力化するようなスマート技術に関する共同研究などは、本学で積極的に行われるのではないかと期待しています。


―― 最後に、この新牛舎や全自動システムは、今後の北海道酪農の「餌の考え方」や「酪農のあり方」をどのように変えていくと思われますか。

今はまだ搾乳ロボットの普及率は低い状況ではあります。北海道酪農では規模拡大が進んでおり、労働力が不足しつつある現状において、酪農を持続可能な産業としていくためにも、搾乳ロボットや自動給餌機の導入数は増加すると考えます。本学で搾乳ロボットや自動給餌機に関わる研究を行い、多くの知見を得ることにより、新たに搾乳ロボットを導入する農家さんの助けになることができればと思います。


次回は、フィールド教育研究センター農事課の佐藤課長に、「労務管理・事務職員から見る期待と取組み」についてお話を伺います。


【関連】
◆
酪農学園フィールド教育研究センター
https://www.rakuno.ac.jp/outline/initiatives/farm.html
◆新牛舎特設ページ 農場・Renewプロジェクト ― 酪農を『楽農』の時代へ―
https://www.rakuno.ac.jp/43009.html
◆循環農学類 土井和也 講師
https://www.rakuno.ac.jp/teacher/21997.html


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