世界初! 赤ビートワインを学内の野生酵母を使って製品化に成功!

Date:2020.06.09

NEWS NO.4(2020年度)

世界初! 赤ビートワインを学内の野生酵母を使って製品化に成功!

本学 大学院修士課程2年の南典子さん(指導教員:山口昭弘教授)が、赤ビートワインを完成させました。 南さんは、大学院酪農学研究科食品栄養科学専攻修士課程に社会人大学院生として所属し、「学内野生酵母の分離と赤ビートワイン醸造への応用」をテーマとして研究を進めています。 この度、その研究成果として、学内のシーベリーから分離した野生酵母(Hanseniaspora vineae)を用い、赤ビート原料を合同会社アグマリンプロテック社から無償提供を受け、委託醸造先としてばんけい峠のワイナリーに協力いただき、世界初となる赤ビートワイン(ハーフボトル360ml、80本)を完成させました。 なお、今回は数量限定しての生産のため、一般販売は実施いたしません。

左から、山口昭弘教授、南典子さん、南貴幸さんと娘の杏奈さん

今回、南典子さん、そして、ボトルのラベルデザインを担当したご主人の南貴幸さん、指導教員の山口昭弘教授にそれぞれインタビューしました。

南典子さんに聞きました。

■大学院進学と研究テーマ 以前から大学院で勉強をしたいという思いを持っていました。山口先生とは一般財団法人日本食品分析センターで以前4年ほど一緒に働いていたことが縁で、酪農学園大学でワインを研究テーマとしていることを知りました。自身のワイン好きが高じてワインエキスパートの資格も持っていましたので、それらが繋がって、ワイン研究を目的に社会人大学院生として入学しました。 研究を進めていくうえで、知地英征先生(北海道大学大学院農学研究院研究員、藤女子大学名誉教授)から赤ビートを醸造に用いることについてご提案いただくとともに、合同会社アグリプロテックの西村太輔社長をご紹介いただき、赤ビーツ50kgを無償でご提供いただけることとなりました。そして、酵母の分離培養や試験醸造の実験を重ねて、2019年8月に札幌市で開催された日本食品科学工学会において「野生酵母を用いた赤ビートワイン発酵条件の基礎検討」をテーマに発表を行いました。 赤ビートワインに関する研究を進めるうえで、学内やむかわ町のシーベリー、学内のブドウ(ピノ・ノワール)などから分離培養した野生酵母を試験醸造に用いましたが、学内のシーベリーから分離した野生酵母(H. vineae)が一番相性の良い結果となったことから、学内シーベリーの野生酵母を選択しました。赤ビート搾汁液のほかに、ばんけい峠のワイナリーのキャンベル・アーリのワインを赤ビートワインと同量をブレンドしました。今後は、ブドウ果汁と搾汁液を混ぜてから醸造することも検討すべき課題の一つです。 大学院進学や学会発表にあたり、職場の日本食品分析センターの理解を得ることができてとても感謝しております。さらに、今回完成した赤ビートワインの香気分析を依頼することになるなど、今回の研究をきっかけとして、さらなる共同研究に発展しました。共同研究の研究成果については、修士論文の発表内容に盛り込まれる予定です。

委託醸造をお願いした「ばんけい峠のワイナリー」で


■今後の展望や計画 次はぜひ、一般販売を実現できたらと思います。普通のワインとは一線を画した美味しいワインができたと思います。ラベルの裏側に説明文を掲載しましたが「赤ビートの特徴である深いガーネット色とほっくりした甘み」を感じられる稀有なワインができました。北海道産ブドウであるキャンベル・アーリの果実味も感じられ、赤ビートの特徴である土臭(ゲオスミン)がほのかに残る味わい深いワインができました。 また、ここまでの大学院修士課程での2年の研究期間があっという間だったということもあり、学びに対する欲が芽生えてきました。博士課程進学を視野に入れて、さらに学びを深めたいと考えるようになりました。

南貴幸さんにラベルデザインについて聞きました。

今回のラベルのデザインは「売れる!」ことを目指してデザイン案を作成しました。原材料がすべて北海道産ということから、北海道らしさを表現しました。パステルを基調として、赤ビートやロゴマークも自身でデザインしました。過去には、地方の市議会議員のイメージキャラクターをデザインしたこともありました。現職はデザインとは関連がありませんが、きっとデザインの道に進んでいたら大成したと思います。 今回は残念ながら一般販売には至らなかったですが、いずれは販売してほしいと考えています。

完成した赤ビートワイン


指導教員の山口昭弘教授からのコメント

ラベルに「世界初」を入れることは国税庁への申請の関係(証明できない!)で実現とはなりませんでしたが、資料をあたっても赤ビートのワインは前例がないことから、世界初であるということができると思います。当初、搾汁の機械は阿部茂教授(食品企画開発研究室)にある機械を借りて試みましたが、赤ビート50kgという大量の原材料であったことから、地方独立行政法人北海道立総合研究機構 食品加工研究センターの大型装置をお借りしました。赤ビートを加熱して、剥皮、細切、摩砕、圧搾という工程が必要であり、研究室に所属する男子学生の若色大地さん、寺田透弥さん、菊地誠人さん3名が大いに活躍してくれました。 南典子さんは、2020年9月修了を目指し、「学内野生酵母の分離と赤ビートワイン醸造への応用」をテーマに修士論文をまとめているところです。野生酵母は学内A2号館前にあるシーベリーから分離しました。シーベリーは本学と食品加工研究センターと江別市の3者が連携協定締結を記念して植樹したシーベリーから採取しました。酵母を含めた原材料のすべてが北海道産であり、シーベリーと搾汁では食品加工研究センターとの縁があって実現したことから、赤ビートワインのストーリーが出来上がったと感じました。 ▼連携協定締結を記念したシーベリー記念植樹会・研究発表会の開催(江別市ホームページ,2014) https://www.city.ebetsu.hokkaido.jp/soshiki/kigyouricchi/2204.html 学内シーベリーから分離した野生酵母(H. vineae)はイタリアなどでは実際のワイン醸造に用いられている酵母種です。欧州のモダンワインは、豊かな風味を与える野生酵母で発酵させて、その後に市販の醸造用酵母Saccharomyces cerevisiaeを加えてさらにアルコール発酵を進めるシーケンシャル発酵が流行っていると聞きますが、それに近い醸造方法といえます。 南さんは、ご主人の理解もあり、研究を進めることができましたので、まさに家族でつくり上げた世界初の赤ビートワインです。とてもユニークで美味しいワインができたと思います。

実験中の山口昭弘教授と南典子さん


【関連リンク】 ★ばんけい峠のワイナリー ★一般財団法人 日本食品分析センター ★合同会社 アグマリンプロテック ★地方独立行政法人北海道立総合研究機構 産業技術研究本部 食品加工研究センター