本学で初の全身麻酔下でのヒグマのMRI検査を実施

Date:2020.07.27

NEWS NO.10(2020年度) 本学で初の全身麻酔下でのヒグマのMRI検査を実施

のぼりべつクマ牧場のヒグマ「ショウヘイ」2歳、体重110kgのオスが、てんかん発作の可能性があるとして、6月25日に本学附属動物医療センターで初となる全身麻酔下でのMRI検査が行われました。クマの診療はめずらしく、本学と同牧場の共同チームは2年前に、同牧場のツキノワグマの白内障手術を行っており今回で2回目の診療となります。

ヒグマ「ショウヘイ」オス2歳110kg

前足

後足


のぼりべつクマ牧場の松本直也獣医師

同牧場を担当する獣医師の松本直也氏は、「約1年前からショウヘイの痙攣が確認されていましたが、血液検査などクマ牧場で可能な検査では原因が明らかにならず、酪農学園大学での精密検査をお願いすることになりました。どの個体だから治療をするというのではなく、クマ牧場を支えるクマだから。大事にする気持ちは強いです。また、クマのデータを蓄積していくことはクマ牧場の役割・責務と考えています」と話しました。

のぼりべつクマ牧場の鳴海課長

同牧場のアトラクション部動物課長の鳴海誠氏(酪農学科 家畜育種学研究室1991卒)は、「クマ牧場では現在67頭(メス23頭、オス44頭)のクマを飼育しています。ショウヘイは2歳のクマの中でも体が小さい方なので、MRIでの検査が可能と判断されました。ショウヘイはどんくさいキャラクターで愛されています。元気になってその姿をまた皆さんに見せてほしいと願っています。また、こうして母校とつながりが持てたこともうれしく思います」と話しました。 ■「のぼりべつクマ牧場公式サイト
診療を担当した本学獣医学類の上野博史教授(伴侶動物外科学Iユニット)は、「今回のMRIでの画像診断の結果は、腫瘍や炎症などの異常がみられませんでした。てんかん発作の原因が遺伝子異常か特発性のものなのかさらに詳しく調べる必要があります。また、世界的にもクマの治療にかんする論文は少ないため、本学のように痙攣発作を呈するヒグマに対してMRIや脳脊髄液検査をすることができる施設は極めて貴重といえます」と話しました。

のぼりべつクマ牧場からヒグマを搬送

ブルーシートを外す

ヒグマ「ショウヘイ」


前日夜遅くにのぼりべつクマ牧場からトラックで本学に搬送されたショウヘイ。 檻は同牧場の特注品で、山頂と山麓を行き来する唯一の交通手段であるロープウェイで移送できるよう、ロープウェイ脱着型移送檻をオーダーメイドで製造したものです。

吹き矢で麻酔薬を注射する

全身麻酔がかかるまで時間を置き確認

麻酔薬で眠るショウヘイ


朝8:30に麻酔薬の投与を開始しました。 時間を計り麻酔薬の効きを入念に確認する松本獣医師。

見守る学生たち

麻酔導入覚醒室へ運ぶ準備

檻をフォークリフトで運び入れる準備


檻を運ぶ

檻から出す

麻酔が切れて暴れないか緊迫した空気


馬用の麻酔導入覚醒室にヒグマを運び、本学の麻酔科の獣医師たちによる迅速な処置が行われました。 クマの全身麻酔は事例が少く、個体によって麻酔薬の量が違うのでクマが目を覚まして暴れる危険性もあり、緊迫した空気に包まれました。

気管挿管する

足の動脈から血液を採取

次々と処置が行われる


110kgの巨漢をウィンチで持ち上げる

ストレッチャーに乗せる

MRI検査室へ移動


MRI検査

画像診断

再び麻酔導入覚醒室へ


続いて1.5テスラMRI(磁気共鳴画像装置)による画像診断が行われました。このMRIは通常は人の検査に使用される物ですが、本学では動物用として使用されています。 MRI検査は、非常に強い磁石と電磁波を利用して体の断面を撮影するため、クマの毛に砂鉄などの金属類やダニが付着していると危険なことからビニールで全身を覆いました。

脳脊髄液を採取

診察を終える

檻の中に戻るショウヘイ


画像診断の結果、腫瘍や炎症などの異常がみられませんでした。 てんかん発作の原因が遺伝子異常か特発性のものなのか、さらに詳しく調べるため脳脊髄液が採取されました。 約3時間で診察を終え、正午にはショウヘイは檻に戻されました。