2022年度 学位記授与式 学長式辞

Date:2023.03.16

 農食環境学群483名、獣医学群199名、大学合計682名、酪農学研究科17名、獣医学研究科5名、大学院合計22名、合計704名の学位記を授与される皆さん、おめでとうございます。
 卒業生の皆さん、晴れて今日の日を迎えられたことに、酪農学園大学教職員を代表して、心よりお祝い申し上げます。今日までの長い間、皆さんの学業と研究を支えてこられた、ご家族、関係者の皆様のご苦労に対し、敬意と感謝の意を表します。
 本日、ここに谷山理事長をはじめ、西田常務理事、清澤附属とわの森三愛高等学校長、野酪農学園同窓会校友会会長のご臨席を賜り、学位記授与式を挙行することができました。また、本年は、新型コロナウイルス感染者が減少したことにより、卒業生のご家族の方1名に限り出席していただく事にいたしました。本来であれば多くのご来賓や卒業生のご家族、関係者にご出席いただきたいところでありますが、新型コロナウイルス感染症の心配がまだ残っていることから、昨年同様に時間を短縮して、学位記授与式を行うことといたしました。卒業生の皆様、ご家族、関係者の皆様のご理解とご協力に、心より感謝申し上げます。今日が皆様の良い想い出として、長く記憶に残ることを願っております。
 さて、皆さんが本学で過ごした4年あるいは6年の間には、いろいろな出来事がありました。
 今年は東日本大震災が発生してから12年目を迎えます。未だ完全に復興していない所もあり、ご苦労されている方が多くおられます。一日も早い復興を心より願っております。また、2月6日には、トルコ南部のシリア国境近くでマグニチュード7.8の大地震が発生しました。甚大な被害状況に胸を痛めた方も多かったことと思います。私たち酪農学園は、被災者の方々に少しでも寄り添いたいという想いから、募金活動を行いました。被災された方々の心が少しでも癒され、一日も早く穏やかな日が戻ることを心より願っております。
 2020年2月から新型コロナウイルス感染症が急拡大し、世界中がパンデミック状態になりました。学生の皆さんが安全で健康に学生生活を送れるように、私たち教職員は一丸となり、あらゆる面からの検討を行い、感染防止対策を実行して参りました。皆さんには、様々な行動制限をお願いすることとなり、不自由な日々を長い間、強いることになりました。この間の皆さんの努力に心より敬意を表するとともに、感謝いたします。また、全教職員の皆様にも感謝を申し上げます。
 世界は、ウィズコロナからポストコロナへと行動様式が移ろうとしていますが、様々な課題を抱えています。新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大により、労働力不足や物流の停滞などが起こり、その影響は未だに尾を引いています。また、昨年2月に突如始まったロシアによるウクライナ侵攻は、世界の食料供給に大きな影響を与えました。結果的に、自国優先や食料の囲い込みなどが進み、フードショックという言葉も使われるようになりました。食料の安全保障ということが、頻繁に話題に上るようになりました。これまで、わが国の食料自給率の向上については、事ある度に重要課題として語られてきました。しかし、新型コロナウイルス感染症の拡大とウクライナ問題が発生したことにより、食料問題は、これまでとは次元の異なる問題になったと思います。また、現在、畜産農家は飼料費、燃料・資材費等の急激な高騰により、経営危機にあることを、皆さんも報道等で知っていると思います。畜産に限らず、水田、畑作農家も同様に、これまで経験したことのない、厳しい状況に置かれています。
国連は世界の人口は、2022年11月に80億人に達すると発表しました。一方で、最大8億人もの人々が飢餓に苦しんでいると言われています。このような食料危機は、新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大の影響の他に、各地で起きている紛争、気候変動に起因する集中豪雨、干ばつなど、頻発する自然災害が影響していると考えられています。
 このような時こそ、酪農学園大学の果たす役割は大きいと思います。
 本学の創設者 黒澤酉蔵先生をはじめとする先達たちは、冷害に疲弊する農民救済に奔走しました。今こそ、もう一度、黒澤酉蔵先生と同志たちが、何に突き動かされて、様々な困難に挑んでいったのか、考えるべき時ではないかと思います。黒澤酉蔵先生は、田中正造翁に師事して、足尾鉱毒に苦しむ農民救済に奔走した“他者のために生きる”という精神を形成し、デンマークをルーツとする「三愛主義」の考えに辿り着いたのではないかと思います。
黒澤酉蔵先生や先達たちが、私たちに教える建学の精神「三愛主義」「循環農法」は、「誰一人取り残さない」持続可能な世界をめざす開発目標であるSDGsにも通じた考えです。私は、本学の建学の精神は、今まさに世界が必要とし、そして、酪農学園大学で学んだ皆さんを、社会や世界が必要としていると確信しています。
 私たち酪農学園大学には、膨大な研究業績の蓄積があります。酪農学園大学の叡智を集めて、現在、日本や世界で起きている様々な問題の解決と、新たに進むべき道を示すことができると考えています。新型コロナウイルスに翻弄され、各地で争いが起こっている今、私たち酪農学園大学は「三愛主義」「健土健民」の建学の精神を広く伝えなければならないのです。そのことが私たち酪農学園大学の使命でもあります。
 今日、学び舎を後にする卒業生の皆さんも、ぜひ、酪農学園大学の建学の精神を、今日、あらためて思い起こし、これからも心に止めておいて頂きたいと思います。
 デジタルトランスフォーメーションの進歩により、私たちの生活は大きく様変わりし、便利で豊かな社会になることが期待されています。デジタルトランスフォーメーションの最先端を走る情報通信技術の企業では、リモートワークやワーケーションなどの新しい働き方を薦め、生活スタイルが大きく変わろうとしています。しかし、リモートワークにストレスを感じる人も増えてきており、一部の企業では対面での仕事に戻そうとする動きもあります。私は、さまざまな課題を抱える現在の社会にあっては、必ず、豊かな人と人との繋がりが大切であり、そのことを実感する人も増えるのではないかと考えています。これからの社会においても、本学の建学の精神に基づく教えが、皆さんの支えになると信じています。
 むすびに、皆さんが心身ともに健康で、目標に向かって飛躍し、そして、このキャンパスに機会ある度に帰ってきてくれる日を楽しみにしております。
ご卒業おめでとうございます。

2023年3月16日
酪農学園大学
学長 堂地 修