2023年度 入学式 学長式辞

Date:2023.04.06

 農食環境学群426名、獣医学群205名、大学合計631名、酪農学研究科19名、獣医学研究科7名、大学院合計26名、合計657名、そして編入学された皆さん、ご入学おめでとうございます。
 酪農学園大学教職員を代表して、皆さんのご入学を心よりお祝い申し上げます。
 本日、ここに谷山理事長をはじめ、西田常務理事、清澤附属とわの森三愛高等学校長、野酪農学園同窓会校友会会長のご臨席を賜り、入学式を挙行することができました。また、本年は、新型コロナウイルス感染者数が減少しましたので、入学生のご家族の方1名に限り出席していただく事といたしました。本来であれば、多くのご来賓や新入生のご家族、関係者にご出席いただきたいところでありますが、新型コロナウイルス感染症の心配が完全になくなっておりませんので、昨年と同様に時間を短縮して、入学式を行うことといたしました。新入生の皆さん、ご家族、関係者の皆様のご理解とご協力に、心より感謝申し上げます。今日が、大学生活の記念すべきスタートの日として、皆様の記憶に長く残ることを願っております。
 新入生の皆さんは、新型コロナウイルス感染症拡大の中で、高校生活を送り、大変なご苦労があったのではないかと思います。皆さんを今日まで支えてこられたご家族も同じ想いをされたのではないでしょうか。新入生の皆さん、ご家族、関係者の皆様のご努力に敬意を表します。
 酪農学園大学は、135万平方メートル、東京ドーム28個分の広さのメインキャンパス内に、校舎、牛舎、牧草地、作物実習・研究圃場、動物医療センターなどがあります。このキャンパスは、北海道立自然公園・野幌森林公園と接しています。また、車で約15分の元野幌地区には肉牛農場、豚・羊・鶏の中小家畜施設があります。
 本学は、札幌市郊外にありながら、家畜、作物、食、健康、環境、獣医学を、単に体験的ではなく、実務的に学ぶことができる、恵まれた環境にあります。この恵まれた環境の中で、優秀な教職員が揃い、充実した教育・研究プログラムと学生サービスが揃っていますので、新入生の皆さんは安心して学ぶことができます。本学の恵まれた環境を十分に活用し、教職員を良き相談相手として、実りある学生生活を過ごしていただきたいと思います。
 さて、酪農学園大学の歴史について、少し紹介したいと思います。酪農学園は今年で創立90周年を迎えます。大学は創立63年目を迎えます。本学の創設者は黒澤酉蔵先生です。黒澤酉蔵先生は茨城県で生まれ、わが国最初の公害と言われる、足尾銅山の鉱毒被害に苦しむ人々の救済に、一生を捧げた田中正造翁に国土の大切さを学びました。その後、北海道に渡り酪農を始めます。当時は度重なる冷害やバターの価格暴落に、農民は苦しんでいました。黒澤酉蔵先生と志を同じくする仲間たちは、苦しむ農民の救済に奔走し、酪農の振興に心血を注ぎ、酪農を基盤とした寒地農業の確立に尽力します。そして生涯にわたり酪農教育に情熱を注ぎ続けました。
 黒澤酉蔵先生は、戦争で荒れ果てた国土を農業によって復興させたデンマークにも、国土の大切や農民教育の大切さを学びます。そして、グルンドヴィの「神を愛し、人を愛し、祖国を愛し」という三愛主義に出会います。
 昨年2月、ロシアがウクライナに侵攻しました。その後の惨劇については、皆さんも良く知っている事と思います。未だに戦争の終結は、見通せず、多くの人々が命の危険に曝される悲劇が続いています。ウクライナは「世界の食料庫」と呼ばれるほど、肥沃な黒土に覆われた大地の国です。砲撃によって壊れた街並みや大地が、元通りの歴史ある肥沃な大地に戻り、ウクライナが復興するためには、気の遠くなるような時間と労力が必要です。今すぐにでも停戦し、傷ついた人々の心が癒され、安寧な日々が戻ることを願わずにはおられません。
 このウクライナ侵攻を契機に、世界の食料供給にも影響が出ています。加えて、気候変動による自然災害の多発、コロナ禍における物流の停滞、食料の囲い込みなど、課題が山積しています。さらに、日本の農業は、これまで経験したことのない厳しい状況に置かれています。畜産においては、飼料や燃料等の資材費の異常な高騰が続き、経営が続けられず、離農する農家が急増しています。畑作や水田農家も同じ状況に置かれています。そして、農業に関係する団体や企業にも深刻な影響を与えています。今日、安定的な食料生産の重要性が、ますます増してきています。日本においても、食料の自給率向上が、一段と重要な課題になることは確実です。
 このような時こそ「農・食・環境・生命」について学ぶ、私たち酪農学園大学の社会的役割は、実に大きいものがあります。とりわけ食料生産と環境との共生に関わる研究分野においては、その役割は極めて大きいと思います。
 黒澤酉蔵先生をはじめとする先達たちが残した、デンマークをルーツとする酪農学園大学の建学の精神・理念である「三愛主義」「健土健民」の考えは、今まさに世界が必要としています。「三愛主義」とは、「神を愛し、人を愛し、土を愛する」ということです。「神を愛し」とは善き人になろうと努力すること、「人を愛し」とは互いの違いを受け入れて生かしあうこと、「土を愛す」とは大地を健康に育てることを意味しています。「健土健民」とは、「健やかな土地から生み出される健やかな食物によって健やかな生命が育まれる」ということです。この考え方は、単に農業に止まらず、人類の営みすべてに当てはまり、今日、誰一人取り残さない持続可能な開発目標、SDGsに通じる考え方です。
 私たち酪農学園大学は、与えられた役割をあらためて覚えて、社会的使命に真摯かつ果敢に向き合わなければなりません。そして、本日、入学された皆さんにも、その一翼を担っていただけることを大いに期待しています。
 大学は様々な事を経験して学ぶ所です。多くの人が、大学は専門的な知識や技術を学ぶ所と考えると思います。酪農学園大学は「単に知識を身に付けるだけではなく、知識と実践は一体である」という「知行合一(ちこうごういつ)」の有能な農業人ならびに社会の人材の養成も目的としています。
 社会においては、幅広い教養、考える力、人を想う心、物事を判断する力も求められます。人工知能や情報通信技術の急速な進展とグローバル化する現代においては、人と人の関わりが豊であることがもっとも大切です。新入生の皆さんにも、ぜひ、この知行合一の実践者になって頂きたいと願っております。
 さて、本学はさまざまな取り組み進めています。獣医学群は今年10月にヨーロッパ獣医学教育機関協会(EAEVE)の認証を取得する予定です。私立大学では、最初にこの国際認証を取得することになります。まさに、国際的な教育水準で、質の高い、世界に通用する獣医学教育を受けることができるようになります。また、農食環境学群は、地域社会や農業に貢献する教育研究を幅広く行っています。作物の品種造成、エコフィードを用いた豚や肉牛の生産技術、新しい機能性物食品の加工、開発、熊、鹿、野鳥など野生動物との共生、環境保全に関する研究など、多くの研究分野で農食環境学群はリードしています。新入生の皆さん、ぜひ、どのような学びや研究ができるかの積極的に探してみてください。私たち教職員は皆さんの学生生活をサポートします。
 最後になりましたが、ご家族、関係者の皆様、私たちは建学の精神・理念にしたがって、新入生の皆さんが4年あるいは6年後に、必ず社会に必要とされる有為な人材になるように、教職員一丸となって努力して参ります。どうか、ご支援いただきますようお願い申し上げます。
 
皆さん、ご入学おめでとうございます。

2023年4月5日
酪農学園大学
学長 堂地 修