本学学生・大学院生が第6回乳房炎サマーキャンプで各賞を受賞

Date:2019.10.16

NEWS NO.54(2019年度)

本学 学生・大学院生が第6回乳房炎サマーキャンプで各賞を受賞

9月4日(水)~5日(木)、佐島マリーナホテル(神奈川県横須賀市)にて開催された「第6回乳房炎サマーキャンプ」(主催:日本乳房炎研究会)において、本学の学生および大学院生が各賞を受賞しました。

本学学生・大学院生が第6回乳房炎サマーキャンプで各賞を受賞

(前列左から)北名さん、西さん、渡辺さん、(後列左から)岩野教授、藤木助教、権平助教、樋口教授

獣医衛生学ユニット(指導教員:樋口豪紀教授、権平智助教)
 西  航司さん(獣医学研究科3年、ポスター発表:優秀発表賞)
 渡辺 麗奈さん(獣医学類6年、口頭発表:優秀発表賞)
獣医生化学(指導教員:岩野英知教授、藤木純平助教)
 北名 純也さん(獣医学類6年生、口頭発表:最優秀発表賞)

西 航司さん(獣医学研究科3年、ポスター発表:優秀発表賞)
<演題名>
Mycoplasma bovisのウシ滑膜細胞に対する侵入メカニズムの解明
<演題内容>
マイコプラズマはウシの乳房、肺または関節に病気を引き起こす細菌であり、特にマイコプラズマ・ボビスは感染能力の強い細菌として知られています。マイコプラズマ・ボビスに感染したウシを治療してもなかなか治りにくいため、酪農家や獣医師に恐れられている病気です。
これまでにマイコプラズマ・ボビスがウシの体の中で生き続ける仕組みは明らかにされてきませんでした。今回の私の研究によって、マイコプラズマ・ボビスがウシの細胞に侵入することが明らかとなり、さらにそのメカニズムを解明することに成功しました。
今回の研究結果は、世界で初めて明らかにされたことであり、マイコプラズマ・ボビスに対する治療薬の開発に役立つ重要な情報であると考えられます。
<感想>
自分の研究成果を周りの方々に評価していただくことは、とても嬉しいです。これまでの努力が報われた気がします。それもこれも、ご指導していただいた樋口先生、権平先生のおかげです。これからも自分の限界を定めずに、さらなる努力を続けていこうと思います。
渡辺 麗奈さん(獣医学類6年、口頭発表:優秀発表賞)
<演題名>
 Mycoplasma属菌がウシ乳腺上皮細胞の免疫応答能に及ぼす影響
<演題内容>
  マイコプラズマはウシの乳房に病気(乳房炎)を引き起こす細菌であり、治療をしても治ににくく乳生産に大きな影響を与えることが知られています。また、農場内のウシにうつりやすいことから酪農家や獣医師の間で大きな問題となっています。
今回の私の研究では、乳房炎の原因となる3種類のマイコプラズマがそれぞれウシの乳房に与える影響について調べました。その結果、菌の種類によって病気の起こし方が異なるということを発見しました。
今回の研究結果は、マイコプラズマによる乳房炎について今まで知られていなかったことであり、治療法や予防法を開発するうえで重要な情報であると考えられます。
<感想>
 ゼミに所属してからの研究を評価していただけて大変うれしいです。ご指導していただいた樋口先生、権平先生、西さんのおかげでこのような結果を得られました。卒業後は大学院に進学するので今回の研究では解明しきれなかったことを明らかにするためにより一層頑張りたいと思います。
北名 純也さん(獣医学類6年生、口頭発表:最優秀発表賞)
 <演題名>
 ウシ乳房炎由来Staphylococcus aureusに対する効果的なバクテリオファージの応用
 <演題内容>
 人や動物、その他の生物と共に地球上に存在している細菌は、時にそれぞれの生物に恩恵を与え、またある時にはそれらの生物にとって重大な脅威となります。このような細菌による脅威である細菌感染症に対して、人類はこれまでに抗生物質と呼ばれる特効薬を生み出し、およそ90年の間、病原細菌との戦いを繰り広げてきました。ペニシリンの発見以降これらの抗生物質によって多くの人の命が助かり、抗生物質の発見は感染症対策における20世紀最大の功績であると称えられています。しかし、その一方で、抗生物質に抵抗性を持ついわゆる薬剤耐性菌は抗生物質の効果を逃れ、現在では世界各国でその脅威を拡大しています。
2014年にイギリスの研究機関は、何も対策が行われなければ、2050年までに薬剤耐性菌に関連する死者数が年間1000万人を超え、ガンによる死者数を上回るという驚くべき報告を発表しました。また、この世界的な問題に対しG7において各国首脳同士が議論を展開するなど、薬剤耐性菌の対策は世界的に喫緊の課題となっていますが、未だに代替策の応用に目処が立っていないということが現状です。
そんな状況を打破するため、当研究室では、これら細菌と太古の昔から生存競争を繰り広げてきた、細菌の天敵であるバクテリオファージを用いた感染症治療、いわゆる“ファージセラピー”を展開したいと考えています。
バクテリオファージは、細菌に特異的に感染して増殖し、細菌を死滅させるウイルスです。細菌に特異的に感染するということは、人や動物の細胞には感染できないことを意味します。このバクテリオファージは、ウイルスであるため自分自身では増殖ができません。したがって、宿主となる細菌の代謝を利用して、自分の子孫を増やします。ひとたびファージが細菌に感染すると、1つのファージが数十から数百個のファージに増殖します。このとき、宿主の細菌の中で増えただけでは、子孫ファージがさらに周りの細菌に感染することができません。そのため、子孫を増やした最後には、エンドライシンという細菌の細胞壁を破壊する酵素を作り出します。このエンドライシンの働きで宿主の細菌は破壊(溶菌)され、増殖した子孫ファージが宿主細菌の外に放出されます。そして、この子孫ファージたちがまた次の細菌に感染し増えていくことができます。
エンドライシンは細菌の細胞壁を破壊することができますが、この効果はファージが存在しなくても有効であるため、当研究室ではこれまでに、ファージ並びにエンドライシンが抗菌対策として期待できると考え、着目してきました。本研究では、乳房炎の牛から分離された複数の菌株に対し、実験室レベルでこの二つの有効な使い方を検討し、薬剤耐性菌を含む様々な細菌に対する有効性が確認されました。今後は、当研究室が着目してきたこのファージとエンドライシンが動物の体内でも有効であることを評価し、新たな細菌感染症対策としての可能性を探っていく予定です。この研究が世界の薬剤耐性菌問題に少しでも貢献できることを期待しています。
 <感想>
 今回、第6回乳房炎サマーキャンプの口頭発表部門において最優秀賞を受賞させて頂きました。今年度、当研究室ではファージセラピーに関連して、日本細菌学会総会 優秀発表賞(獣医学類6年生 マンビ・モンゴメリ)、細菌学若手コロッセウム 微生態特別賞(博士課程1年生 中村暢宏)、日本細菌学会北海道支部会 優秀発表賞(藤木純平 助教)の3つの栄誉ある賞を受賞しています。今回の乳房炎サマーキャンプの受賞により、私もこの御三方に少し近づくことができたと感じており感無量です。また、温かいご指導を賜りました岩野英知教授、様々なサポートをしていただきました関係各位の皆様に深く御礼申し上げます。
これら今年度の受賞からも、ファージセラピーへの関心と期待が高まってきていることが感じられます。私は大学卒業後、競走馬の世界へ進もうと考えておりますが、ファージが扱えるという特徴を生かし、ファージと競走馬の世界をつなげられるような人材になりたいです。
また、今回私が2年間かけて取り組んできた卒業研究を評価して頂きました。自分で考え、手を動かし、結果を導き出せたこの2年間は私にとって今後の人生で大きく役立つ経験であったと感じています。今後も研究で培った探求心と行動力を忘れずに、現場で求められていることから新たな知見を見つけ、競走馬、牧場の皆様、獣医師の方々に貢献できる人材として活躍していきたいと強く願っています。