本学 循環農学類 天野朋子准教授の北海道和種馬の歩様に関する論文が海外の乗馬愛好家ウェブサイト「the HORSE」に紹介されました

Date:2019.09.26

NEWS NO.48(2019年度)
本学 循環農学類 天野朋子准教授の北海道和種馬の歩様に関する論文が海外の乗馬愛好家ウェブサイト「the HORSE」に紹介されました
本学農食環境学群循環農学類の天野朋子准教授(家畜遺伝学研究室)の北海道和種馬の歩様に関する論文が、海外の乗馬愛好家ウェブサイト「the HORSE」に紹介されました。本研究は、北海道大学北方生物圏フィールド科学センター静内研究牧場 牧場長の河合正人准教授、及び同機関技術職員の山田文啓氏、北海道和種馬保存協会の白井興一氏、東京大学大学院 農学生命科学研究科 生物測定学研究室の小野木章雄博士、及び本学の上田純治特任教授との共同研究で行われたものです。   このたび、天野先生に、論文の概要と今回のウェブサイト掲載についてコメントをいただきましたので、以下に掲載いたします。   北海道和種馬は北海道で作られた在来家畜(土着の家畜)です。本品種は14-15世紀に本州から持ち込まれた馬に由来するといわれ、車が普及する1960年頃まで、人や荷物の主要な輸送手段として用いられました。有名なところでは、青函トンネルの建設にも大いに役立ったといわれています。また北海道和種馬には、「側対歩*」という世界的にも珍しい脚の運び(歩様)を示す個体が頻繁に生じます。この歩様を示す個体は、示さない個体に比べて背中の上下動が少なく、人や荷物を乗せて快適に長距離を移動できるとされ、伝統的に好まれてきました。現在でも本品種の品評会(共進会)では、美しい側対歩を示す個体が高く評価されています。 北海道和種馬に側対歩の個体が生じる理由として、子馬は離乳するまで母馬と一緒に暮らすため、子馬の頃に母馬の歩様を学習するなどの説がある一方、学習ではなく遺伝のみが関係するとの説もありました。本研究では側対歩を示す個体群と示さない個体群の全遺伝子(DNA)の比較から、側対歩を示す個体は全て運動神経の発達に関係するDMRT3遺伝子が2本とも変異しているものの(動物はある遺伝子を1セット(2本)持っている。)、側対歩をしない個体群ではこの変異を2本持つものは1割程度であることがわかり、DMRT3遺伝子の変異、すなわち遺伝が側対歩の主要因であることを明らかにしました。ここから遺伝子検査にてDMRT3遺伝子が変異した個体を選んで親馬にすると、側対歩の個体が生まれる確率を高められるなど、生産農家への貢献が考えられます。 一方、変異したDMRT3遺伝子を2本持つものの側対歩をしなかった個体では、その母馬が側対歩をしておらず (変異したDMRT3を1本しか持たない雌馬は側対歩をしないが、2本持つ子馬を持つことがある。)、母馬から側対歩を学ぶことができなかったとも考えられました。そこで、変異したDMRT3遺伝子を2本持つ個体について、側対歩をする群としない群の母馬の歩様を確認しましたが、両群とも側対歩をしない母馬を持つ個体の割合は変わらず、子馬が母馬から歩様を学ぶとは考えにくいことも明らかになりました。 歩様は馬の運動特性と密接に関係するため、長い馬文化を持つ国々では関心の高いトピックであり、本研究が海外のウェブサイトに紹介された理由もそこにあるように思います。北海道は日本でも豊かな馬文化を持つ地域のひとつであり、海外にその紹介ができたということについて、とても嬉しく思います。
 

北海道和種馬の放牧風景
(北海道和種馬保存協会)

 

側対歩をする北海道和種馬
(北海道和種馬保存協会提供)

 
「the HORSE」ウェブサイト:https://thehorse.com/175109/foals-dont-learn-to-pace-from-their-dams/   原著論文:Amano T, Onogi A, Yamada F, Kawai M, Shirai K, Ueda J. “Genome-wide association mapping and examination of possible maternal effect for the pace trait of horses.” Animal Genetics, 2018 Oct;49(5):461-463.https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30109696   側対歩*:馬は中程度のスピードで走る際、通常、斜めの対の脚(右前脚と左後脚、左前脚と右後脚)をセットとして交互に動かし、2拍子の歩様を示す。このとき側対歩を示す馬では同側の脚(右前脚と右後脚、左前脚と左後脚)がセットになる。