堂地修教授が日本農業研究所賞を受賞
Date:2024.03.29
NEWS No.103(2023年度)
堂地修教授が日本農業研究所賞を受賞
本学農食環境学群循環農学類の堂地修教授(家畜繁殖学研究室)が、公益財団法人日本農業研究所による第31回日本農業研究所賞を受賞しました。
[研究業績の題名]
牛の凍結受精卵の移植技術の簡易化に関する研究と普及
[業績紹介]※公表資料より
堂地修氏は、牛凍結受精卵を農家の庭先で融解してそのまま移植できる技術を世界に先駆け開発するとともに、その普及に尽力した。
家畜の遺伝的能力の改良と優良家畜の増殖は畜産の基本であるが、雌牛が生涯に生産可能な子牛の頭数は限られる。優良な遺伝的能力を有する雌の卵子から受精卵(胚)を生産し胚移植により多数の子牛が得られれば、牛の改良・増殖を促進できる。そのためには、いつでも、どこでも利用可能な凍結胚が不可欠である。
凍結胚から子牛が世界で初めて生産されたのは1973年である。当初は凍害防止剤として凍結精液でも利用されているグリセリンが多く供試され、研究的には成功を収めた。しかし、この手法では胚の浸透圧障害を防ぐため凍結時や融解時にグリセリン濃度を段階的に変える(ステップワイズ法)ことから、移植に先立ち胚を実験室内で保存容器(ストロー)から取り出して顕微鏡下での融解処理を行うことなどが不可欠で、実施者も施設も限定されていた。
技術を簡易化し普及を図るために、ストロー内で希釈操作を行うワンステップストロー法や希釈を必要としないダイレクト法の開発が世界中で進められた。堂地氏らは日高種畜牧場においてショ糖を利用してストロー内でグリセリンを希釈するワンステップストロー法による新たな手法を開発し、ステップワイズ法に劣らない受胎率を得た。しかし、ストロー内の受精卵の操作に熟練が必要であり、実施者によって受胎率がばらついたことから広く普及するまでには至らなかった。
そこで堂地氏は、我が国の研究者によるエチレングリコール(EG)が凍害防止剤として有効であるとの実験動物での報告やマウス凍結胚ではEGを希釈しなくても生存性が高いとの先行研究に着目し、牛凍結胚の凍害防止剤としてEGを利用する新たなダイレクト法を世界に先駆けて開発した。さらに堂地氏は、11道府県の公設場所が参加する大規模な野外試験を主導してその有効性を示した。この技術は、特別の施設や機械器具等を準備する必要なく凍結胚を民間の獣医師や人工授精師が農家の庭先で融解してそのまま移植できることから急速に普及し、現在ではほとんどの凍結胚で利用されている。
堂地氏は大学に転じてからも胚移植に関する研究室を主宰し学生に対する教育を通じて技術を教授するともに、生産者への直接的な啓蒙・普及活動も積極的に行ってきた。現在では、乳用牛への胚移植による和牛(黒毛和種牛)生産が肉牛経営だけではなく酪農経営における所得形成にも有用な技術として定着しつつある。国の施策として農林水産物の輸出が推進される中で和牛肉は主要品目の一つであるが、同氏が開発した技術が政策実現の基礎となっている。このように、堂地氏の我が国畜産業に対する貢献は非常に大きなものである。
この賞は、(公財)日本農業研究所が「農業に関する学術研究上の顕著な貢献をした者」を表彰し、その研究業績が今後の農業の発展にも貢献することを期待するもので、昭和 40 年度が第1回目で、概ね隔年度毎に実施され、今回は第 31 回目に当たります。
本件については、3月15日開催の本研究所理事会で正式決定され、3月27日開催の研究所評議員会への報告を経て公表されました。
【参考】
農食環境学群 循環農学類 家畜繁殖学研究室 堂地修 教授
https://www.rakuno.ac.jp/archives/teacher/9312.html
公益財団法人日本農業研究所
http://www.nohken.or.jp/