行動変容促す管理栄養士に(食と健康学類 栄養教育学研究室 杉村留美子准教授)

 栄養教育学は、栄養学の知見を礎に、行動科学の考え方を取り入れて、対象者の行動変容を促し、食生活・食環境を改善することによって、健康的な食習慣を身に着けることを目的としている。食と健康学類栄養教育学研究室(杉村留美子准教授)では、昨年度に続き幼児を対象に、給食時のコミュニケーションに着目し、食べる速さとの関連性を調べている。

杉村留美子准教授(前列中央)とゼミ生たち

 幼稚園児を食べるスピードが速い子の群と遅い子の群に分け、それぞれの食事の様子を観察し、コミュニケーションの量を比較した。実際に保育園を訪問し、給食風景の記録から観察研究を行った。具体的には、食事中の会話や視線のやり取りに着目し、その長さを秒単位で計測。行動が生起されるごとにカウントする時間見本法を用いて行動の分析を行った。
 研究に参加したゼミ生は、
 「昨年度、先輩方が同じテーマで研究し、コミュニケーションの生起率を示しました。私たちはそこからさらに深めて、コミュニケーションの連続性に着目しました。食べるのが遅い子たちは、食事時間の中盤から後半にかけて連続したコミュニケーションが多くなる傾向が見られ、友達と視線を交わす時間も中盤から後半にかけて多くなっていました。食べるのが速い子たちは、会話や視線を送る行動に連続性が見られません。比較対象として成人の食事の様子を観察したところ、コミュニケーションと食べる行動を上手く切り替えて、連続せず断片的に行っていた。幼児の場合、上手く切り替えることが難しく、遊んでしまう。私たちの考察としては、コミュニケーションが増える中盤から後半の遊んでしまうときに声掛けをすると、ちょうどいいタイミングで摂食を促す指導ができるのではないかという結論が得られました」
 と説明してくれた。
 杉村准教授は、
 「『楽しく食べましょう』と言われていますが、『楽しく食べる』ことの尺度が今までなかったので、今回はコミュニケーションの場に着目しました。食べるのが遅い子どもたちは、速く食べるようにと注意されることが多いと思いますが、今回の対象者は、実際には決められた生活時間の中できちんと食べ終えています。コミュニケーションがとれていて、遅い子たちこそが楽しく食べているんじゃないかと思います。ただ、まだまだ大人の関与が必要ですから、ポイントを押さえて声掛けをすることで、上手く切り替えることができると思います」

 昨年度、同ゼミの4年生たちは「第4回s-1g(エスワングランプリ)大会(おいしい減塩レシピコンテスト)」に挑戦し、学生部門の1位を獲得した。国立循環器病研究センター主催の同大会は、循環器病予防のためのおいしい減塩レシピを提案し、栄養価や美しさ、作りやすさを評価するもの。塩分を1食2グラム以下に抑えて、美味しい献立を提案する。一組4人のチームを二組作って応募したところ、一組が一次審査を通過。8人で力を合わせて調理技術や手順に磨きをかけ、本選では、調理をする4人のチームを、ほかの4人がサポートするという形で参加。見事に1位に輝いた。

S-1グランプリ学生部門1位に輝いた減塩メニュー


 このほか、同ゼミでは、高齢者や幼児のための食育イベントを地域と連携して開催したり、外部の企業と協働して考案したお弁当がスマートミール(健康な食事)道内認証第1号となるなど、多様が活動を行っている。

高齢者を対象とした食育講座

幼児を対象とした食育講座(だいこん畑にて)




 同ゼミ卒業生はほぼ全員が管理栄養士として、幼稚園・保育所、病院、福祉施設などで働くことになる。卒業後、どのような管理栄養士になりたいかを訊いた。
 「栄養教育の分野で活躍したい。食べることの大切さや楽しいと思える感情を育てたいと思っています」
 「私は病院での栄養教育をしたい。ただ知識を伝えるだけでなく、その人がすぐに実践できることを提案できることが大事。そのための栄養教育の技術やコミュニケ―ションスキル、人間力を養いたい」
 「楽しく食事を摂ってもらいたい。世間から見た管理栄養士は“給食のおばちゃん”、ですが、献立を考えたり、食事について教えたりする仕事がメインです。美味しい食事を提供することを通して栄養について知ってもらい、食事を楽しむことを伝えたい」
 「私は生産者に近い管理栄養士になりたいと思っています。酪農学園大学では畑の作物や動物に触れる機会が多く、そこが他の大学と違うところ。生産者と、例えば野菜嫌いな子どもをつなげられるような管理栄養士になりたい。また、若い栄養士同士の交流の場を作りたい。一人勤務の栄養士も多いので、コミュニティがあれば他の職場の栄養士と横のつながりができると思います。もう一つは、世界に目を向け、栄養をしっかり摂れない国の子どもたちに日本の給食を提供するような貢献も管理栄養士の使命ではないかと思っています。『学校に行けば食事ができる』とわかれば親が行かせてくれる。個人の力では難しいこともありますが、何らかの貢献ができればいいなと思っています」
 杉村准教授は、
 「本学では生産にかかわる機会が多く、他の大学にはない経験ができます。栄養教育学の研究とは別に学外の人との関わりが多く、プレゼンをする機会もあるなど、ゼミ生は学んだことを言葉にして伝える経験を積んでいます。将来に生きるゼミだと思います」
 と語っている。

(月刊ISM 2020年12月号掲載)