画像解析を社会実装する(環境共生学類 環境空間情報学研究室 小川健太准教授)

 環境共生学類環境空間情報学研究室(小川健太准教授)では、ドローンや地球観測衛星等で撮影した画像をさまざまな分野で利活用する研究を行っている。小川准教授は、「衛星画像やドローン画像を空間に紐付ける技術やそれを解析するソフトウエアは日々進歩しています。当研究室は、それらを農業・環境・防災などの現場で使える情報として社会実装する役割を果たしたい」と語る。

 酪農学園大学では、2011年に農業・環境情報サービスセンターを設立。現地センサー情報や衛星画像、ドローンなどによる空中写真、GISデータなどを組み合わせ、必要な情報をタイムリーに提供することにより、「持続的社会・環境保全」を実現することを目指している。環境空間情報学研究室は、GISやリモートセンシング技術を農業・環境・防災などの分野で利活用するための研究を進めている。

 農業分野では、牧草を対象に収量や栄養価を推定する研究「AI(人口知能)を活用した牧草生産の省力化・自動化技術の開発」(農水省・農研機構の革新的技術・緊急展開事業(うち人工知能未来農業創造プロジェクト))に取り組む。ドローン画像から草量・単収や圃場ごとの収量、栄養価などの調査・分析を行う。3次元モデルで草高を推定し、単収と圃場ごと の収量を推定、収納先サイロや収穫計画に活用する。また、衛星画像の活用では、2018年に近赤外画像を使用し、酪農学園大学内のデントコーン畑について、生育が良好な部分と未成育な部分を判別し、地図上に可視化した。野幌原始林側の圃場では、エゾシカによる食害が発生しており、それを含めて作付の把握および生育良否の判断が可能なことを確認した。

 環境分野では、2015年から「ドローン画像&機械学習による水鳥の自動カウント」(独立行政法人環境再生保全機構環境研究総合推進費)に取り組んでいる。湿地は貴重な野生生物の生息場所であり、特に水鳥は重要な環境指標となるため、その生態や飛来数の把握が重要になる。美唄市の宮島沼には毎年春と秋に天然記念物のマガンが数万羽飛来し、毎日目視で飛来数を数えているが、正確に数えるには熟練が必要で、大きな労力を要する。また、熟練者の数が少なく、飛来数を把握できるのはいくつかの湿地・湖沼に限られる。
 そこで同研究室では宮島沼水鳥・湿地センターなどと共同で、ドローンを宮島沼上空に飛ばし、写真を撮影、AIに機械学習(ディープラーニング)させ、マガンの数を自動カウントするシステムの開発に取り組んだ。マガンは宮島沼を塒とし、早朝、沼を飛び立って周辺の田畑で採餌し、夕暮れ時に塒に帰る。このため、撮影には、厳しい条件が課せられた。撮影時間は、マガンが水面にいる日の出前、日没後に限られる。水面全体を撮影するには30枚の写真が必要で、撮影は短時間で完了しなければならない。低照度の時間帯に解像度の高い画像を得るための工夫も必要だ。
 高感度のカメラ、ドローンのホバリング、ブレがすくないジンバル、それらに対応したドローンの開発など試行錯誤を重ね、日没後20分から30分の間の10分間に撮影できるようになった。自律運転で120mの高さから10分間で30枚の写真を撮影。撮影したUAV画像からマガンを検出する精度を高めるため、AIを使って機械学習(ディープラーニング)させる。トレーニングのためのデータはUAV画像からマガンの中心をマウスでクリックして座標を記録することで得られる。
 AIトレーニングを繰り返した結果、一定の精度で自動カウントが可能になった。2019年4月26日に撮影した画像では、UAV画像による目視カウントが4万8,780羽、自動カウントが4万8,207羽でその差はマイナス1.2%だった。

 他の湖沼への展開も課題の一つ。同研究室では、ドローンで撮影した画像からWebサイト上でAIを用いた水鳥(マガン)の自動カウント・システムを開発。先ごろWebサイト「Goose1・2・3」〈https://goose123.jp/〉を公開。無料利用を開始した。現時点では同サービスでカウントできるのはドローンから撮影された画像のみで、利用できるユーザーは限定されるが、ドローンとAI技術、Webアプリケーションの組み合わせで新たな解決策を生み出せる点に着眼し、広く公開することにした。

 防災分野では、林野火災におけるUAVの活用に取り組み、ドローン画像から得られるデータと各隊の位置情報を手元のタブレットに表示するシステムを江別市消防本部と共同開発した。発災時にドローンを飛ばして通常写真やサーモグラフィー画像を撮影し、現場の指揮本部に送信、タブレットに表示することで、発災位置や現場状況を確認し、活動方針や計画立案に活用できる。また、活動中の各隊のリアルタイム位置を同時に表示し、各隊が情報を共有することで、隊員の安全を確保し、早期対応が可能になる。

 近年、ドローンは手頃な価格で入手できるようになっている。また、衛星画像は無料提供される範囲が拡大しており、中には農業・環境・防災の実務に役立つ画像も多い。小川准教授は、
 「ドローンなどの画像解析とディープラーニングの組み合わせはさまざまな応用が可能です。それらを農業などの現場で役立つ形でお届けしたいと思っています」
 と語っている。

(月刊ISM 2020年9・10月号掲載)