「化学で地球を解く」(環境共生学類環境地球化学研究室 吉田磨教授)

 環境共生学類環境地球化学研究室(吉田磨教授)は、北海道の湿地・川・湖・海等においてフィールド観測を行い、環境因子を追跡。「自然環境と地域産業の共生」を目指す。また、地元の子どもたちと一緒に観測、分析、解析などを行い、次世代のリーダーを育てる環境教育を進めている。グローバル環境にも目を向けて国際観測にも参加。未来の地球環境保全のため「環境と人間の共生」に取り組む。

洞爺湖で船外機を操縦する吉田磨教授

 「化学で地球を解く」が環境地球化学研究室のテーマだ。吉田磨教授は、
 「地球化学(ジオ・ケミストリー)は、陸・海・空 をフィールドとする幅広い学問です。地域・地球の環境を化学の眼で診断し、環境と人間が共生する道を探っています」
 と語る。
 環境地球化学研究室では、化学の視点から環境の変化をとらえ、動植物を含めた地域・地球の環境を化学で診断し、環境の保全に役立てる。そのフィールドは、ラムサール条約登録湿地の宮島沼、浜頓別町、大沼、釧路湿原や、洞爺湖など道内の湿地のほか、国際フィールド観測などにも参加し、グローバルな環境にも目を向けている。
 渡り鳥が多く飛来する湖沼では、富栄養化が進み、周辺河川や沿岸海洋にさまざまな影響を及ぼす。農業由来物質の自然環境や漁業への影響も大きい。同研究室では、河川、湖沼、海洋、湿地、水田等においてフィールド観測を行い、水や土、大気中の温暖化気体(二酸化炭素、メタンガス、一酸化二窒素)や栄養塩などを測定。生物多様性保全も考慮しつつ「自然環境と地域産業の共生」や「地方創生」に取り組んでいる。
  ラムサール条約登録湿地でもあるクッチャロ湖には、春と秋に多くの白鳥やカモ類が飛来する。クッチャロ湖に流れ込む河川の上流部には酪農地帯が広がり、クッチャロ湖に流れ込んだ水は、クッチャロ川となってオホーツク海に注ぐ。沿岸部ではホタテの栽培漁業を営んでいる。クッチャロ湖観光と合わせ、酪農、漁業、観光業が浜頓別町の主な産業であり、この3産業の共生が課題となる。同研究室では、2008年からクッチャロ湖や周辺地域から流出する環境因子が河川を通して沿岸海洋生態系に与える影響を科学的に評価し、持続可能な地域産業の共生方法を探る。
 陸・湖・河川・河口・沿岸と続く流域生態系の総合観測を実施。採取したサンプルを研究室に持ち帰って分析した。その結果、クッチャロ湖から流れ出す水の栄養塩濃度が異常に高いことが判明した。原因としては、水系への有機物の流入、クッチャロ湖の浅底化、白鳥の糞尿、白鳥の採食による底泥の攪拌などが考えられた。
 一方で、浜頓別町市街を流れる頓別川からもたらされる栄養塩類は、生物活性において重要な役割を果たし河口沿岸域を豊かにしていることもわかってきた。
 「クッチャロ湖が浅くなり、キャパシティが少なくなったため環境物質を自然の力で処理しきれなくなった結果、多量に海に流出し、ホタテ稚貝に影響を及ぼしていると考えられます。白鳥の食餌行動が影響しており、農業と漁業、自然と人間の共生を実現するために、町全体としてどうすればいいかを考えなければいけないと思います」
 得られた知見を地元に還元するため、2013年に浜頓別環境サミットを開催したほか、2010年からは浜頓別町ジュニアガイドアカデミーの子どもたちを対象に「環境キャンプ」を共催。「子どもたちが実際のフィールド観測の場で用いられている観測方法や観測結果を体験する場を設けることで、自分たちが住んでいる環境の現状を科学的に知るとともに、地域が抱える環境問題について共に学び考えていく機会を提供」(「浜頓別町ジュニアガイドアカデミーを対象として実践的環境教育プログラムの実施報告」2019より)している。
 2017年の環境教育のテーマは「頓別川流域」、翌18年は「クッチャロ湖の水環境」、19年は「川から来た水は海にどう影響している?」。1年ごとに川・湖・海というサイクルでプログラムを組んでいる。浜頓別町と同研究室の活動事例は「大学SDG’s ACTION!AWARD2019」でファイナリスト賞を受賞した。
 また、宮島沼のマガレンジャー、大沼のラムサール隊など地域の自然保護活動を行っている子どもたちと交流し環境教育を実施。子どもたちを大学に招き、サンプル分析を経験させる。吉田教授は、
 「実際のフィールド観測やサンプル分析を経験することで、子どもたちが『科学は楽しい』と感じ、自然環境を将来に残す人材として育ってくれれば嬉しいですね。研究室の卒業生が浜頓別町職員としてジュニアガイドアカデミーの運営に携わっています。ジュニアガイド1期生が酪農学園大学に入り、4年生になっています。大学と地域との連携が進み、『環境のお医者さん』として世界中の現場で活躍してほしいと思っています」
 と語っている。

洞爺湖でのフィールド観測

宮島沼周辺水田におけるフィールド観測




宮島沼マガレンジャーへの環境教育



(月刊ISM 2021年1月号掲載)