動物看護師に役立つスキル(獣医保健看護学類 動物行動生態研究室 郡山尚紀准教授)

 動物行動生態学研究室(郡山尚紀准教授)では、動物看護師育成の一環として子犬・成犬・子猫を対象としたしつけ教室を開催。学生に教室に関するスキルを身に着けさせる活動を行っている。一方、カマイルカやトドなど野生動物の生態研究、動物園・水族館での飼育下の動物の生態研究を行っている。

 動物行動生態学研究室では、子犬・成犬・子猫を対象としたしつけ教室を開催。生後2~3カ月の子犬を対象とするパピークラス、生後半年以上の若齢犬・成犬クラス、生後7週齢~14週齢を対象とする子猫クラスがあり、一般の飼い主から参加者を募集し、動物看護師を目指す学生が教室を開催するためのスキルを身に着ける機会としている。
 パピークラスは、犬の行動学に基づいて、犬の社会化を図り、家族・人間社会の一員として犬が成長できるようにする。若齢犬・成犬クラスは、犬と飼い主のコミュニケーションを図り、家族・人間社会の一員として行動できるように犬のしつけを行う。子猫クラスでは、人が触れることに慣れ、獣医師の診療を大人しく受けられる、人見知りしない猫、ゴミをあさらない猫、上手に遊べる猫、トイレを失敗しない猫を目指し、問題行動を予防する。 
 「獣医保健看護学類の卒業生は半数が動物看護師として動物病院に就職します。しつけ教室のスキルを身に着けていれば、就職先の病院で教室を開き、それが病院にとっての収入源になります。病院で開催することに意味があって、犬や猫がストレスなく病院に来ることができるようになります。それが病気の早期発見、早期治療につながり、結果的に治療費負担を軽減できます。動物が病院に馴れることで診療もしやすくなり、飼い主にとっても動物にとっても病院にとってもメリットがあります」
 と郡山准教授。動物看護師がこうしたスキルを身に着けて動物病院の職場に入っていくことにより、動物病院が飼い主や犬猫にとって身近な施設として親しまれ、動物医療の向上に結び付く。その結果、国家資格化される動物看護師の地位や収入の向上につながり得るということだ。
 同研究室では、野生動物の生態研究にも力を入れている。郡山准教授は日本モンキーセンター研究員としてアフリカ・タンザニアでチンパンジーの研究に従事していたほか、北海道大学でも研究員として働いていた経験を持つ。
 「酪農学園大学のポストに応募したのは、北大に勤務していたときに北海道の自然に魅了されたからです」
 北海道に赴任して出会ったのが野生のカマイルカとトドだった。研究のフィールドは積丹半島の北側、石狩湾の積丹町から小樽市にかけての海域だ。4~6月にカマイルカが来遊し、12月~3月にはトドがやってくる。
 「カマイルカは毎年4~6月に必ず石狩湾に来る。一人の学生が『ずっと音楽をやってきて、イルカの音声に興味があります』と言うので、水中にマイクを入れ、音声を録音することから始めました。それが代々の学生に受け継がれています」
 音声を録音し、そのときの行動を観察する。イルカの猟や食餌、眠る、遊ぶといった行動と、そのときにどんな音声を発しているかを突き合わせることにより、音声によるコミュニケーションの目的や意味を理解できるのではないか、という試みだ。また、身体の模様と音声を突き合わせる作業も行っている。個体識別ができれば、群れの構成の変化など、より理解が進むと考えられる。

 トドについては、研究機関などが漁業被害防止の観点から生態把握調査などを行っており、北海道への来遊数やオホーツク海沿岸の島々で生まれた個体が北海道沿岸に来ていることはわかっている。
 トドの繁殖地は、サハリン、千島列島、カムチャツカ半島、オホーツク海北部の島々。強いオスがハーレムを作り、交尾、出産後、流氷が海を閉ざしてしまう前に南下し、北海道沿岸にやって来る。繁殖地では、ハーレムのほか、ボスの座を狙う血気盛んなアイドルプル、あぶれてしまったバチェラーという群れ、若者の群れがある。南下する際にハーレムが解体することはわかっているが、北海道に来遊するときの群れの構成はわかっていない。そこで、おたる水族館前の岩に集まるトドの群れの構成を調べている。
 「繁殖地のオスの群れがそのまま小樽に来ているのではないかと予想しています」
 郡山准教授はスキューバダイビング・インストラクターの資格を持つダイバーでもあり、その技術を活 かして海中でトドの観測を行っている。
 「最初は警戒心もあって群れでまとまって動いていたのですが、人が危害を加える存在ではないと解ると、個体ごとにバラバラに動くようになります。群れとしての行動、群れの中での個体間の動き、観察する人に対する行動などを観察しています」
 同研究室ではおたる水族館、円山動物園との共同研究にも取り組んでいる。おたる水族館では、海生哺乳類のミルクの分析を行っている。飼育下では親が育児を放棄することがあり、人口哺育を行う。その際、実際のミルクと同じ成分になるよう調合する必要があるからだ。すでにネズミイルカについて論文を発表。他の哺乳類についても分析を進めている。
 円山動物園では、これまでホッキョクグマの赤ちゃんの行動観察、キリンの糞をサンプルとするストレスホルモンの分析を行ってきた。今は、アジアゾウの認知能力の研究に取り組んでいる。
 ゼミ生は3年生9人、4年生3人。卒業生は約半分が動物看護師として動物病院に就職。ほかに動物園・水族館の飼育員や動物看護師が主な就職先だ。郡山准教授は、
 「獣医師の手の届かないところに入って行って、獣医師が気づかないものに気づき、獣医師と話し合って動物の命を守ることができる動物看護師になってほしい」
 と語っている。

(月刊ISM 2021年6月号掲載)