現場で学び、現場に還す(循環農学類 家畜管理・行動学研究室 森田茂教授)

 農食環境学群循環農学類家畜管理・行動学研究室(森田茂教授)では、「現場で学び、現場に還す」「いっしょでないみんなの協働作業」の方針の下、「動物の立場から飼養管理システムを改善する」ことを目指して「家畜の環境」「家畜の行動・心理」「アニマルウエルフェア」の研究に取り組んでいる。

 家畜管理・行動学研究室では、ゼミに配属された3年生は、同大学のフリーストール牛舎で24時間連続の乳牛行動調査を行う伝統がある。「家畜管理と家畜行動の理解は牛舎での出来事を肉眼で観察することから始まる」(森田茂教授)からだ。
 家畜管理学は「動物に配慮する」考え方に立脚した飼養管理を構築し、動物の生活環境の改善(QOL)を図ることを目指す。アニマルウエルフェアに直結する学問だ。家畜行動学は動物の心や要求を動物の立場から科学するもので、そのための観察手法や解析方法の開発を目指す。
 「動物に配慮した飼養を実現するには、動物を知らなければなりません。その手段が家畜行動学。そこで得られた知見などを動物に還元し、アニマルウエルフェアを実現するのが家畜管理学です」(森田教授)
 動物の状態を知る手法としては、血液や唾液、乳、糞尿を分析する家畜生理学がある。ただ、例えば血液を調べるための採血は、動物にストレスを与える上、分析に時間がかかる。これに対し、家畜行動学では、動物の行動や動作を見て身体や心の状態を理解するので、非侵襲的で即時性があるという特徴がある。
 現在取り組んでいる研究テーマの1つは、「飼養管理の自動化とシステム化」。具体的には搾乳ロボットのシステム化だ。1994年から1年間、森田教授はオランダに留学していた。
 「センサーが発達し、搾乳ロボットが出来ていましたが、牛の性質や行動に配慮したシステムはまだ出来ていませんでした。飼養頭数、餌のやり方、機械調整のタイミングなど搾乳ロボットの運用のノウハウが未発達だったのです。やはり牛を知らなければ機械の調整やコンピュータのセッティングはできません」
 ただ機械を導入しただけでは飼養環境の改善や作業の効率化にはつながらない。機械はますますスマート化・精密化しているが、それを生かすには、個体、牧場の規模や特性、気候などに合ったシステムの構築が不可欠なのだ。

 2つ目のテーマはバルク乳の成分分析による群管理。
 「牛は社会性を持つ動物で、群れの中で順位付けをして自分たちの社会を治めています。1頭1頭の状態を知ることも大切ですが、群れでは、1+1が2にならないことが多い。群全体で良好な飼養環境を保つことが大事になります。バルク乳には群れの情報が詰まっています」
 北大との共同研究で、230件の酪農家を訪問し、50項目に上る飼養環境評価を行い、バルク乳の成分との関係を調べている。分析対象は、乳脂率・脂肪酸、乳蛋白、体細胞、ストレス物質など。
 3つ目は子牛の飼養管理。
 子牛は肺炎や下痢に罹りやすく、発症すると死亡率が高い。
 「経験を積んだ酪農家なら、鳴きが少なくなると肺炎になる、背中が曲がっていたら下痢になるなどとわかるものですが、これから酪農を始めようとする若い酪農家には難しい。そこで子牛の行動から病気の予兆を事前にキャッチできないかということを研究しています」
 実際の研究は、24時間365日、子牛の行動を撮影し、病気になったらその子牛の行動を1週間前に遡って観察する。横臥姿勢・横臥時間、居場所などのデータに気候や個性、区画などの要素を勘案し、発病前に予兆的な行動を把握しようという試みだ。
 「牛は生まれてすぐに成長を始めないと立派な乳牛になりません。子牛の成長に大きく影響するのが哺乳期の肺炎や下痢なのです」
 同研究室は、「現場で学び、現場に還す」をモットーとする。学びの“現場”は同大学の牛舎に加え、同研究室OB会の「酪進会」が提供してくれる。
 「酪進会には全国に約900名のメンバーがいます。当研究室の最大の財産です」
 ゼミ生は1学年7~8人。うち、3~4人は酪農・畜産農家の子弟だ。就職先は実家のほか、メガファーム、飼料会社、農業・畜産試験場、他県の畜産課、農業機械会社など。大半が畜産系の職に就く。
 森田教授は、「学生時代にたくさんの農家の話を聞くべきです。本当のフィールドは常に農家。農家の話を聞けば聞くほどバリエーションの違いが分かり、牛を理解できるようになります。農家の話から、農家が感じている課題、気づいていない課題を考えられるようになってほしいと思っています」と語っている。



 

(月刊ISM 2022年3月号掲載)