農産物のオリゴ糖を研究(食と健康学類 食品栄養化学研究室 上野敬司 准教授)

 農食環境学群食と健康学類食品栄養化学研究室(上野敬司准教授)では、農産物に含まれる有用成分フルクトオリゴ糖を研究対象に、その合成・分解メカニズムの解明や酵素遺伝子の同定、酵母を使った従来のものとは構造の異なるフルクトオリゴ糖の合成・生産技術の開発に取り組んでいる。

 

 オリゴ糖とは、糖質のうち、最小単位である単糖が2~10個程度結びついたもので、少糖とも言う。低消化性(低エネルギー)で、整腸作用や腸内細菌を増やす作用などが知られている。特定保健用食品に用いられるフルクトオリゴ糖は、砂糖を原材料として作られるが、同研究室では、従来のものとは構造の異なるフルクトオリゴ糖を研究対象としている。
 「砂糖から作るフルクトオリゴ糖は、ブドウ糖に2~4個果糖の鎖がつながった形をしています。タマネギやアスパラガスに含まれるフルクトオリゴ糖は、果糖の鎖が2本つながっており、やや複雑な構造をしています」(上野敬司准教授)
 砂糖を原材料とする従来のフルクトオリゴ糖同様、整腸作用や腸内細菌を増やす作用は期待されるが、それ以外の効果はまだ調べられていない、という。
 「調べられていないのは、作っている人がいないからです。まだほとんど着手されていない分野なので、それも調べてみたいのですが、まずは従来のものとは構造の異なるフルクトオリゴ糖を大量に作る技術を確立しなければなりません」
 同研究室では、酵母にタマネギやアスパラガス由来のフルクトオリゴ糖の合成や分解に関わるタンパク質の遺伝子を組み込み、構造の異なるフルクトオリゴ糖を作らせる方法を研究している。すでに実験室レベルでは合成に成功しているが、大量に生産できるまでには至っていない。
 現在は、農産物に含まれる多様な構造のフルクトオリゴ糖を合成、あるいは分解する酵素タンパク質を探す作業をしている。タマネギやアスパラガスからフルクトオリゴ糖を合成するタンパク質、分解するタンパク質を探し出し、その遺伝子の働きを探る。
 2022年6月同研究室と北大、弘前大の研究グループは、タマネギで初めてとなるフルクタン分解酵素をコードする遺伝子を見出し、その酵素機能や細胞内局在を明らかにした、と発表した。フルクタンとは果糖分子の重合体で、フルクトオリゴ糖を含み、タマネギでは鱗茎に蓄積する。タマネギのフルクタン合成に関わる酵素遺伝子は以前から見つかっていたが、分解に関わる酵素遺伝子は発見されていなかった。
 同研究グループでは、フルクタン代謝に関わる遺伝子の探索を行い、液胞型のインベルターゼにアミノ酸相同性を持つ遺伝子を発見。この遺伝子の翻訳産物を植物や酵母細胞で発現させ、どのような酵素活性を持つのかを調べたところ、フルクタンを分解する活性を持つことがわかった。インベルターゼは砂糖をブドウ糖と果糖に分解する酵素で、植物細胞の存在する場所により細胞壁型と液胞型がある。他の植物で見つかっているフルクタン分解酵素は、細胞壁型インベルターゼと似たアミノ酸配列を持っているが、今回タマネギで見つかったフルクタン分解酵素は液胞型インベルターゼと似たアミノ酸配列を持っていた。

既知のものと異なり、発見したタマネギのフルクタン分解酵素は液胞型インベルターゼからの進化が推測され、液胞に局在する様子も観察された。

 従来の知見では、フルクタン分解酵素は細胞壁型インベルターゼに、フルクタン合成酵素は液胞型インベルターゼによく似たアミノ酸配列を持つことが知られており、今回見つかった酵素は極めて珍しい特徴を持っている。このことは、今回発見された酵素が液胞型インベルターゼから進化したことを推測させる。
 「タマネギは貯蔵性が高い作物で、貯蔵している間に少しずつですが、オリゴ糖の量が減っていきます。その時に今回発見した分解酵素遺伝子がどのように働くのか、品種による違いなどを含めて解明していきたいと思っています。将来、オリゴ糖が減りにくいタマネギができるかもしれません」
 アスパラガスの場合、フルクトオリゴ糖は食べる部分にはほとんどなく、根に集中的に存在する。春、オリゴ糖を分解してエネルギーとして芽が育っていく仕組みだ。同研究室ではアスパラガスのフルクトオリゴ糖を分解する酵素をすでに発見している。分解酵素が活発な品種と、不活発な品種があるのだとしたら、活発な品種はフルクトオリゴ糖がどんどん分解され、芽が出やすいのかもしれない。同研究室では、循環農学類農場生態学研究室の園田高広教授とともに、アスパラガスの芽の出やすさにオリゴ糖がどう関与しているかを調べている。
 「道内ではアスパラガスを冬に出荷するため伏込促成培が行われています。11月ころにハウスに植え替えることによって冬をスキップして芽を出させる方法です。その際のオリゴ糖の分解メカニズムと芽の出やすさとの関係が解明されれば、生産性を高めることができるかもしれません」
 上野准教授は、「食品成分の新しい健康機能に関する研究や生活習慣病予防につながる食品素材を含む農産資源に関する研究を学生と一緒に進めていきたいと思っています」と語っている。