トレーニングを科学する(食と健康学類 食・健康スポーツ科学研究室 山口太一教授 柴田啓介講師)

食・健康スポーツ科学研究室(山口太一教授・柴田啓介講師)では、運動・スポーツを行っている人により良いトレーニング方法と栄養摂取方法を提供することを目的に、トレーニング科学、スポーツ栄養学に関する研究を行っている。ストレッチング、レジスタンストレーニング(=筋トレ)などのトレーニング方法、運動・トレーニング前後の栄養摂取方法について探究を続け、得られた成果をスポーツの現場に還元している。

左:柴田啓介講師 、 右:山口太一教授

 同研究室では、山口教授が「運動前のストレッチングが運動の成果に及ぼす影響について」、柴田講師が「エキセントリック運動に着目したレジスタンストレーニングの方法と効果について」をメインの研究テーマに据えているほか、運動前の糖質摂取が運動中の血糖値に及ぼす影響、運動後の栄養摂取がインスリン分泌(エネルギー回復)に及ぼす影響、レジスタンストレーニング中の栄養摂取がトレーニングのパフォーマンスに及ぼす影響、レジスタンストレーニング中の休息時間がトレーニングのパフォーマンスに及ぼす影響について研究を進めている。
 ストレッチングは静的ストレッチング(スタティックストレッチング)と動的ストレッチング(ダイナミックストレッチング)の2種類に分けられる。山口教授のこれまでの研究から、①長時間のスタティックストレッチングはパワーを低下させる、②短時間のスタティックストレッチングは持久走パフォーマンスを低下させない、③ダイナミックストレッチングはパワーを向上させる、④ダイナミックストレッチングは持久走パフォーマンスを向上させる‐ことが分かってきた。現在は、レジスタンストレーニング前のスタティックストレッチングおよびダイナミックストレッチングがトレーニング効果に及ぼす影響について検討している。


 レジスタンストレーニングの動作には、コンセントリック運動とエキセントリック運動の2種類がある。ダンベルやバーベルを用いる場合、持ち上げるのがコンセントリック運動、下ろすのがエキセントリック運動だ 。レジスタンストレーニングの効果を高めるにはエキセントリック運動がカギとなる。
 柴田講師は、エキセントリック運動に着目し、効果的なトレーニング方法を研究している。エキセントリック運動を強調させる方法はいくつかあり、現在は、エキセントリック運動だけを実施するレジスタンストレーニング法の研究を進めている。先月学術雑誌に採択された論文で、肘屈曲筋群において、エキセントリック運動だけを実施する場合はコンセントリック運動だけを実施する場合と相対的強度が同じ場合にも高重量かつ高回数を実施することが出来ることを明らかにした (図3)。今後は、エキセントリック運動だけを実施するレジスタンストレーニングにおける適切な強度や回数などを明らかにしていく予定という。
 エキセントリック運動だけを実施するには、コンセントリック運動を省く必要があり、本人に代わってダンベルやバーベルを持ち上げる補助者が必要となる。柴田講師は、「ダンベルやバーベルを機械的に持ち上げてくれるトレーニングマシンがあれば単独でもトレーニングできるようになります。安価なマシンを開発して頂ける機械メーカーを探しています」と語る。
 「運動前の糖質摂取が運動中の血糖値に及ぼす影響について」では、運動前のどのタイミングで糖質を摂取すれば運動中に低血糖にならないか、を調べた。結論は男女・昼夜に関係なく運動30分前に30g/500㎖(6%)の糖質溶液摂取により運動中に低血糖になるが、運動30分前に150g/500㎖(30%)の糖質溶液を摂取するか、もしくは運動4分前に30g/500㎖(6%)の糖質溶液を摂取すれば低血糖にならないことがわかった。通常のスポーツドリンクは4~6%なので、運動4分前の摂取が望ましいということになる。現在は、同じく6%の糖質溶液摂取を運動の5分前、10分前、15分前としてどのタイミングから低血糖になるかを調べている。
 「レジスタンストレーニング中の休息時間がトレーニングのパフォーマンスに及ぼす影響について」では、ベンチプレスおよびスクワットにおいて、通常推奨される休息時間4分を8分に延長することで、疲労感を軽減し、トレーニング量を増大させることがわかった。ただ、その場合、全体のトレーニング時間が長くなってしまう。そこで休息時間は4分のまま、ベンチプレスとスクワットを交互に実施してみたところ、トレーニング所要時間は同じでありながら、疲労感を軽減し、休息時間8分の場合と同等のトレーニング量を実現できることがわかった。今後は、さらに休息時間を延長することでトレーニング量を増やすことができるのかどうか、また、2つのトレーニング種目を交互に実施する場合の最適な休息時間を明らかにしていく。
 同研究室では、超低温技術の㈱エイディーディー(ADD)と共同で、人体を一時的に超低温環境に置く冷却療法(クライオセラピー)の効果に関する研究を進めようとしている。運動前後に同社が開発した「クライオバス」を使用し、その効果を確かめる。また、合同会社アグマリンプロテックより道産ビーツを原料とするビーツパウダーの提供を受け、運動前のビーツパウダー摂取が運動の成果に及ぼす影響についての研究を計画している。
 同研究室は、管理栄養士養成課程の学生が所属し、卒業後は管理栄養士職として公務員、病院、ドラッグストア、保育園などに就職している