本学 獣医学類 藤木純平助教が第85回日本細菌学会北海道支部学術総会で優秀発表賞を受賞

Date:2019.09.04

NEWS NO.44(2019年度)
本学 獣医学類 藤木純平助教が第85回日本細菌学会北海道支部学術総会で優秀発表賞を受賞
8月23日(金)に本学を会場として開催された、「第85回日本細菌学会北海道支部学術総会(総会長:本学獣医学類獣医細菌学ユニット内田郁夫教授)」において、本学獣医学類の藤木純平助教(獣医生化学ユニット)が口頭発表を行い、優秀発表賞を受賞しました。
 演題名は「ファージ耐性化のFitness costはP. aeruginosaのファージ感受性にトレードオフを誘導する」。本学獣医生化学ユニットとしては、今年度の日本細菌学会総会、細菌学若手コロッセウムに続きファージセラピーに関する演題で三冠を達成しました。
今回、藤木純平助教より、発表の内容についてご説明いただくとともに、受賞についてコメントをいただきました。
 
演題内容 抗生物質や抗菌薬と呼ばれる薬剤は、日本に住む私たちにとってとても一般的で、体調を崩してしまったとき、特に細菌による感染症に罹ってしまったときに特効薬として広く用いられてきました。歴史的にもペニシリンやストレプトマイシンといった抗生物質の開発が梅毒や結核などの感染症から多くの人の命を救ってきました。一方で、広く世界に目を向けると、細菌感染症に対抗する手段は果たして抗生物質以外には無いのでしょうか? 抗生物質の効かない細菌、薬剤耐性菌が世界的に顕在化した今日、その答えを紐解く鍵は、日本から遠く離れた東ヨーロッパ、ロシア、ポーランド、ジョージアで“ファージセラピー”として実践されています。 バクテリオファージは細菌だけに感染し、細菌の中で増殖することで溶菌する(人や動物には感染せず菌だけを倒す)ウイルスのことを示します。自然界に広く分布し、細菌とバクテリオファージは、人類の誕生以前から長い年月をかけて、まるで捕食者とその獲物のように御互いの生存をかけた攻防戦を繰り広げて来たといえます。そこで、細菌の天敵ともいえるバクテリオファージを感染症治療に応用しようとする試みが“ファージセラピー”の最も重要なコンセプトです。本学の獣医生化学ユニットはファージセラピーの臨床応用を目指した研究を実施していますが、このファージセラピーが直面せざるを得ない根強い課題は抗生物質と同様に細菌の耐性化です。つまり、細菌が抗生物質に耐性化したように、細菌はバクテリオファージに対しても耐性化することでファージ耐性菌になるのです。この大きな問題に挑戦するため、今回の受賞演題が目指した研究の核心は、「ファージ耐性化のコントロール」、特に、「ファージ耐性化の予防を目指すというよりファージ耐性菌の出現を念頭に置いて、ファージセラピーの展開上有利なように我々が意図した方向性に細菌をファージ耐性化させる」ことにあります。 ここで私が着目したシステムが、進化生物学に基づく表現型のトレードオフ機構と呼ばれるシステムです。これは、特定の選択圧(捕食される)に対する適応(捕食から逃げる)が異なる表現型(自分の増殖性など)を減弱させる適応コスト(Fitness cost)として知られています。すなわち、このことはファージ(選択)による細菌のファージ耐性化(適応)が、ファージ耐性菌にFitness costを強いることで、何か重要な細菌の特徴を犠牲にしている可能性を示唆していると考えました。この発想に基づき、本研究では、細菌があるバクテリオファージに耐性化したときに、これまで効かなかったファージが効くようになる、バクテリオファージ感受性のトレードオフを見出しました。これらの成果は、このようなバクテリオファージを組み合わせた戦略的なファージカクテルの構築を可能とし、今後この現象の分子基盤をゲノムレベルで解明することで、一般性のあるファージ感受性トレードオフのメカニズムに迫ることが出来るのではないかと考えています。特に、自然界において、細菌がいなくなってしまうとバクテリオファージは生存することが出来ず、一方で増えすぎた細菌はその分バクテリオファージによって溶菌されるという絶妙なバランスを保っています。これらの進化の仕組みとバクテリオファージの多様性を活かした本研究は、今後のファージセラピーを考える上で抗生物質には無いバクテリオファージ特有のプラットフォームとなってくれることを期待しています。
 
受賞者である藤木純平助教のコメント 今回の受賞に際し、大会長や本会の関係各位の皆さま、また、共同研究者の先生方に心より御礼申し上げます。 バクテリオファージの発見は、実は世界初の抗生物質ペニシリンの発見よりも古く、東欧を中心にファージセラピーは実際に人や動物へ応用されてきました。また、薬剤耐性菌の発生を背景として、ファージセラピーは1900年代初頭以来の脚光を再び浴び、各国において今後の抗菌戦略として大きな期待を背負っているということが出来ると思います。ただ、薬剤耐性菌にバクテリオファージが“効く”という効果だけがインパクトを残す時代は既に過ぎ去り、ゲノムレベルで更に詳細なメカニズムに迫るウイルス学的な視点や、本研究でも取り上げた、細菌とバクテリオファージの進化、或いは環境中でバランスを保ち細菌叢-ファージ叢を形成する生態学的な視点など、より包括的なアプローチからファージセラピーをブラッシュアップし、次のステージへ押し上げる努力が強力に必要であると痛感しています。本研究が、その過程において着実にステップを踏んでいることを願って止みません。 また、本年度開催された細菌学に関する学術集会において、本学の獣医生化学ユニットはファージセラピーに関する演題で、日本細菌学会総会 優秀発表賞(獣医学類6年生 マンビ・モンゴメリ)、細菌学若手コロッセウム 微生態特別賞(博士課程1年生 中村暢宏)、そして今回の日本細菌学会北海道支部会 優秀発表賞の3つの栄誉ある賞を頂きました。これらの受賞は、ファージセラピーに対する期待と責任の反映で有ると受け止め、今後も研究室としてファージセラピーの研究・開発に邁進したいと考えています。受賞演題が扱ったバクテリオファージは、それぞれ大腸菌ファージ、黄色ブドウ球菌ファージ、緑膿菌ファージと多岐に渡りましたが、バクテリオファージの多様性と同様、研究室メンバーの多様性と個性を武器に今後も更なる解析を展開したいと思います。
 

授賞式を終えて、(左から)本会で特別講演をされた本学獣医生化学ユニット 岩野英知教授、本学獣医生化学ユニット藤木純平助教、東京工業大学生命理工学院 丹治保典教授

 

本年度の細菌学系学会における当ユニットの受賞者。左から第92回日本細菌学会総会 優秀発表賞 マンビ・モンゴメリ(獣医生化学ユニット6年生)「フルオロキノロン耐性大腸菌HUE1に対する新規バクテリオファージの探索」、第13回細菌学若手コロッセウム 微生態特別賞 中村暢宏(獣医生化学 博士課程1年生)「黄色ブドウ球菌ファージ由来溶菌酵素(LysΦSA012)の機能解析」、本稿に記載の藤木、当ユニットの岩野教授



【参考】本学学生が「第92回日本細菌学会総会」で優秀発表賞を受賞(マンビ・モンゴメリさん) https://www.rakuno.ac.jp/article-63301.html 【参考】獣医学研究科1年中村暢宏さんが第13回細菌学若手コロッセウムで微生態特別賞を受賞 https://www.rakuno.ac.jp/article-64529.html