
取得学位 | 博士(獣医学) |
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研究室・ユニット名 | 動物生殖学 |
研究キーワード | 牛子宮 受胎性 超音波検査 |
乳牛の発情周期における子宮内膜厚変化と受胎性との関係
研究の概要・特徴
牛の子宮内膜は発情周期を通してその厚さが変化します。乳牛の発情周期のうち2-3日間の卵胞期(発情期)に浮腫状態となって子宮内膜厚が増加したのち、排卵後2日までに元の厚さに戻り、その後の黄体期間中は元の子宮内膜の厚さを維持するという周期的変化を示すことがわかりました(画像①②)。牛の黄体期の子宮内膜の厚さにはそもそも個体差があり、発情期における子宮内膜厚の増加の程度も発情周期ごとに異なります。このような発情期における牛子宮内膜厚の増加変化と受胎性との関係は明らかにされていません。そこで、我々の研究では、超音波検査による乳牛の子宮内膜厚測定を実施し、自然発情時の乳牛の子宮内膜厚変化とその後の受胎性との関係を評価しました。その結果、発情期に子宮内膜厚変化率の大きい乳牛、すなわち発情期に子宮内膜がより厚くなる牛の方が受胎率が高いことがわかりました(画像③)。今後は、子宮内膜の周期的変化に関与する性ステロイドホルモン、ならびに子宮内膜厚増加に関与する液性因子の作用機序についても明らかにし、発情期に子宮内膜が厚くなるという変化が受胎に向けてどのような正の作用をもたらしているのかを明らかにする必要があります。家畜に対する超音波検査技術が一般に広く普及しつつある昨今では、我々の研究結果は獣医師のみならず、家畜人工授精師および受精卵移植師の臨床現場における診断技術補助となる可能性があり、酪農家、畜産家の生産性向上に貢献することが考えられます。
産業界等へのアピールポイント(用途・応用例等)
1990年代より世界的に乳牛の受胎性は低下し続け、今なお低迷しています。乳牛の受胎成績を向上させるため、生殖器に関係する多くの研究が展開されていますが、その中でも、発情期の牛子宮内膜の生理作用や機能についてはまだまだ解明すべき点が多くあります。牛子宮内膜の機能が解明されることは、獣医師や授精師にとっての発情診断、人工授精診断、および受精卵移植診断の助けとなります。このことは、乳牛の受胎成績の改善、ひいては酪農家の経営向上につながり、社会への安定した食糧供給にも貢献することとなります。