本学大学院生の中村暢宏さんが 「日本ファージセラピー研究会 第1回研究集会」で最優秀賞を受賞

Date:2022.03.18

NEWS NO.74(2021年度)

本学大学院生の中村暢宏さんが
「日本ファージセラピー研究会 第1回研究集会」で最優秀賞を受賞

2021年11月にオンライン開催された「日本ファージセラピー研究会第1回研究集会」において、本学大学院獣医学研究科博士課程3年の中村暢宏さん(指導教員: 岩野英知教授)が最優秀賞を受賞しました。
第1回となる本研究会は、ファージセラピーの社会実装を目指し、2020年8月に発足されました。会長に就任した本学獣医学類の岩野英知教授(獣医生化学ユニット)は、「日本におけるファージセラピーの実現に向けた大きな試金石となることを確信しています」とあいさつしました。
今回、基調講演4演題、若手の研究発表を中心に17演題、参加者は約100名となりました。

左から岩野英知教授、中村暢宏さん、藤木純平講師、山村文之介さん

<受賞演題>
「イヌ緑膿菌性外耳炎に対するファージカクテル療法の実施とファージ耐性菌の出現について」
○中村暢宏、酒井俊和、藤木純平、中村圭佑、岩野英知

<研究概要>
抗菌薬の効かない薬剤耐性菌による感染症が拡大しており、2019年には世界で約127万人が薬剤耐性菌の感染によって命を落としたと推定されています。近年、細菌にのみ感染するウイルスであるバクテリオファージを利用した“ファージセラピー”が薬剤耐性菌に対する切り札として注目され始めています。ファージセラピーは東欧において抗菌薬よりも早く使用され始め、欧米においても近年急速にファージ製剤の開発や人への臨床応用が開始されています。しかしながら、これまで日本においては獣医療含め、人医療においても臨床現場での使用はされたことはありませんでした。
今回の研究では、本学附属動物病院に来院した犬の緑膿菌感染に伴う慢性外耳炎の症例に対して、日本で初めてとなるファージセラピーを実施しました。耳道内に存在した腫瘍を摘出するとともに、ファージ液を耳道内に投与する治療を行なった結果、排膿などの症状が改善し、再診時から半年以上に渡って緑膿菌は検出されなくなりました。また、治療過程においてファージが効きにくいファージ耐性緑膿菌が出現しましたが、耐性化の代償として運動性やバイオフィルム形成に関わる鞭毛や線毛の機能が失われていることが示唆され、細菌のファージ耐性化が症状改善に寄与した可能性が示唆されました。

中村暢宏さんの受賞コメント

今回、ファージセラピー研究会の第1回研究集会に参加できたこと、またこのような賞を頂くことができ大変嬉しく思っております。私は獣医学生だった頃から獣医生化学ユニットにてファージの基礎研究を行っており、卒業後には動物病院にて臨床獣医師として勤務してきました。そこでは薬剤耐性菌の感染によって苦しむ犬・猫を多く目にし、ファージセラピーをいち早く臨床現場に届けたいという気持ちで大学院へ進学し、これまで研究を行ってきました。そのため、獣医療でのファージセラピーの実施は学生時代からの長年の夢でした。また、日本では初めてとなった今回の症例では難治性の外耳炎症状が顕著に改善し、治療後は緑膿菌が全く検出されなくなり、ファージセラピーの効果が認められました。この1例を皮切りに、日本でのファージセラピー実施が容易になり、さらに発展していくことができるよう基礎研究者として、また臨床獣医師として尽力したいと思っております。また、今回のファージセラピー実施にあたり、研究面でのサポートをしてくださいました獣医生化学ユニット岩野教授、藤木講師、臨床面でサポートしてくださいました伴侶動物外科学ユニット酒井助教、また治療の際に協力してくださった獣医生化学ユニット6年生のファージ班の皆様、さらにはファージセラピーを受けてくださったオーナー様、わんちゃん全てに感謝しております。


【参考】
◇2019.12.17「本学 獣医学研究科 1年 中村暢宏さんが令和2年度日本学術振興会 特別研究員(DC1)に採用内定」https://www.rakuno.ac.jp/archives/7429.html
◇2019.08.30本学 獣医学研究科1年中村暢宏さんが第13回細菌学若手コロッセウムで微生態特別賞を受賞https://www.rakuno.ac.jp/archives/3102.html
◇日本ファージセラピー研究会 第1回研究集会https://sites.google.com/view/1st-annual-meeting-of-jspt/

【教員・研究室一覧】
◆岩野 英知教授(獣医生化学ユニット)
https://www.rakuno.ac.jp/archives/teacher/9417.html
◆藤木 純平講師(獣医生化学ユニット)
https://www.rakuno.ac.jp/archives/teacher/9461.html