山﨑 裕毅

獣医学類

山﨑 裕毅 やまざき ひろき

准教授

研究室番号
動物医療センター 304

教員・研究室

取得学位 獣医学博士
研究室・ユニット名 伴侶動物内科学
研究テーマ 伴侶動物の内科疾患の病態解明と新規診断法・治療法の開発
学びのキーワード 消化器神経画像診断炎症性疾患
教育・研究への取り組み 近年、伴侶動物の高齢化により腫瘍疾患の罹患率が増加していることから、高度な医療技術が求められています。当研究室では、がんに対する分子標的治療の新規開発に取り組んでおります。実際の症例を通して、疼痛や副作用の少ない抗がん治療を目標として臨床研究を行っています。
受験生へのメッセージ 将来的に国際水準に基づいた先進的教育を実行するために教育改革に取り組んでいます。獣医師の担うべき社会的義務や責任の重要性を十分に認識させることが教育の本質と考えております。本学附属動物医療センターで最新の医療知識の収集と高度な臨床技術を習得し、共に将来の獣医療の発展に貢献していきましょう。

研究シーズ

研究キーワード 低酸素応答 3次元細胞培養 腫瘍微小環境
犬の脳腫瘍に対する低酸素標的療法の開発
研究の概要・特徴

脳神経細胞は低酸素環境に極めて虚弱であり、短時間の低酸素ストレスで細胞死を生じる。これらに対する保護機能として、脳神経細胞内では低酸素応答因子(HIF-1)活性経路やHIF-1応答性シグナル伝達経路が発達しており、ミトコンドリアに依存しないエネルギー産生源を独自に所有している[Front Neurosci. 2015]。これらのシステムは脳神経機能を維持するうえで極めて重要であるが、同時に脳神経由来腫瘍の悪性転化を促進させている。脳腫瘍では血管内皮障害による血栓塞栓、細胞増殖に伴う酸素消費量の上昇や未熟な腫瘍血管形成により腫瘍内部で酸素供給が減少する。過酷な低酸素環境が確立すると、脳神経由来の発達した低酸素応答システムにより腫瘍細胞のHIF-1が異常に活性化して、様々な癌遺伝子産物が過剰増幅する(Adv Exp Med Biol. 2019)。HIF-1活性はglucose transporter 1(GLUT), vascular endothelial growth factorα(VEGF), Survivinやmulti drug resistance 1(MDR)など、複数のHIF-1α応答性遺伝子を転写レベルで発現誘導し、細胞の機能転換を経て治療抵抗性を進展させる。脳神経組織を環境由来とする人のGLでは、HIF-1異常活性化によってアポトーシス耐性や治療抵抗性を恒久的に維持している[Neuro Oncol. 2005]。以上より、犬の脳腫瘍の中でも特に高い発生頻度を示すGLの治療抵抗性獲得機序を解明するためには、低酸素環境とHIF-1活性は重要な意義を持つ。

これまでの研究成果
1. 低酸素ストレスによる犬GL細胞の低酸素誘導因子(HIF-1α)とHIF-1α応答性遺伝子の発現状況を調査した。これらのHIF-1活性により発現レベルが変化する遺伝子を網羅的に検索し、HIF-1活性のシグナル伝達経路に存在する治療抵抗性遺伝子を特定した。
2. 3次元低酸素培養法を用いて、犬GL細胞の増殖・浸潤能、細胞周期パターン、抗がん剤及び放射線感受性を評価し、HIF-1活性型の治療抵抗性細胞モデルを作製した。
3. 臨床的に治療抵抗性を示した犬GLの組織サンプルと治療抵抗性細胞モデル(前述2.)の形態学的特徴、細胞周期パターン及び治療抵抗性遺伝子(前述1.)の発現量を比較解析し、臨床例における治療抵抗性獲得機序を細胞モデルで再現した。

産業界等へのアピールポイント(用途・応用例等)

当該研究の主軸となるHIF‒1活性型治療抵抗性細胞モデルを作製するためには、次世代の細胞培養技術が必要不可欠である。従来の生物学的手法として用いる2次元培養では立体構造を有する脳組織と多くの点で性質が異なるため、in vivoに反映しないケースが多いため、当該研究では3次元培養スフェロイドによる生物学的解析法に着目した。事前調査としてハイドロゲル、コラーゲンベース、酸素透過性多孔質膜や細胞親和性ポリマータイプなど複数の培養足場基材を使用した結果、脳の構成成分に類似した多糖・脂質ベースのハイドロゲル(The Well Bioscience)が、最適な生体模倣環境を提供できると推察した。これらの足場基材により、2次元培養では不可能であった高い細胞活性が得られるため、生体内環境に模した信頼性の高いスクリーニング評価や動物実験の代替となる疾患モデルの構築など、飛躍的な研究成果が期待できる。また、3次元培養を用いた治療抵抗性機構に関する理論展開は、その他の造血器腫瘍や固形がんなどの病態解明に幅広く応用できる。犬GLは人と生物学的類似点が多く、疾患モデルとして研究・汎用されているため、実験動物を使用しないモデル作製技術と生物学的評価は小動物基礎研究だけにとどまらず、人の先駆的疾患モデルへの応用として強いインパクトを与える。