ハスカップの果皮(搾汁残渣)を用いたワインの製品化に成功 (大学院修士課程1年前野奈緒子さん)

Date:2021.03.08

NEWS NO.40(2020年度)

ハスカップの果皮(搾汁残渣)を用いたワインの製品化に成功 (大学院修士課程1年前野奈緒子さん)

本学 大学院修士課程1年の前野奈緒子さん(指導教員:山口昭弘教授)が、「はすかっぷクルゼイワイン」を完成させました。 前野さんは、本学研究生を経て大学院酪農学研究科食品栄養科学専攻修士課程に所属し、地元食材を活用した付加価値を高める商品開発を目標として「ハスカップの果皮(搾汁残渣)を用いたワイン醸造と製品開発」をテーマとして研究を進めています。なお、ワインラベルは食と健康学類3年(応用微生物学研究室)の西村有未さんがデザインしました。

左から、前野奈緒子さん、西村有未さん

ハスカップは苫小牧市勇払原野に自生していた小果樹であり、近年の健康志向の高まりにより、北海道を代表する抗酸化機能食品として注目を集めています。しかし、元々、収穫量が少なく果実は痛みやすいため、生果実としての流通は初夏の極めて短い一時のみです。したがって、多くは冷凍果実または果汁(搾汁液)として用いられるのですが、ほとんどが菓子などの利用に限定されています。一方、搾汁後の残渣にもアントシアニンが多く含まれているにもかかわらず、ほとんど有効利用されていないのが現状です。 今回、その残渣である果皮にハスカップ果実から分離した酵母Candida Kruseiを加えて、ばんけい峠のワイナリーにアルコール度数7%と9%の2種類を試作してもらいました。官能検査などを実施した結果、アルコール9%のワインを商品化して販売することが決定しています。なお、この研究は(公財)道央産業振興財団の製品開発支援助成事業の助成を受け、有限会社はすかっぷサービスとの共同研究により実施しました。

「はすかっぷクルゼイワイン」とハスカップ

ハスカップを用いた商品(はすかっぷサービス提供)


前野奈緒子さん(食品栄養科学専攻修士課程1年)のコメント

大学院 酪農学研究科 食品栄養科学専攻 修士課程1年
前野 奈緒子さん
 (藤女子高校・神戸女子大学出身)   1.大学院進学と研究テーマ 地元食材の付加価値を高め、健康に有用な製品を開発することを目指して研究を進めています。今回注目したハスカップは、冷凍果実として活用されていますが、未利用資源である搾汁残渣の有効利用を検討する探索研究を行っています。ハスカップは道内外で高機能食材として有名であり、主に菓子などに利用されていますが、搾りかすである残渣はポリフェノールやアントシアニンなどが含まれているにも関わらず活用が進んでいませんでした。以前所属していた大学では実験機器が十分ではなかったため、新たな研究環境を求めて酪農学園大学の山口先生の下で研究に取り組むことに決めました。 2.ハスカップワインと実験内容 ハスカップはpHが低く、S.cerevisiaeのような一般的な酵母ではアルコール発酵が進まないため、さまざまな酵母を試しました。十分に発酵する酵母を見つけても、色素や香りが良くないために採用できない酵母もありました。最終的にCandida Krusei酵母を用いることで酸性条件下でもしっかり発酵し、ハスカップ特有の爽やかな酸味と色素を表現することができました。 今回の製品は、ばんけい峠のワイナリーさんに、ハスカップの解凍果皮をそのまま漬け込み発酵させたアルコール度数9%のワインと、ペースト状に粉砕して発酵させたアルコール度数7%の2種類を試作していただいたものです。実験室では上手くいく結果が出ても、実際にワイナリーで製造すると環境も分量も大きく異なるため、その点で難しさを感じました。 3.今後の展望や計画 今回のワインの製品化により、ハスカップの残渣を有効利用することは実現できましたので、次は、貴腐菌(Botrytis cinerea)をもちいて発酵させたワイン醸造を実験中です。アルコール発酵前に貴腐発酵を行うために貴腐菌を用いることから、一般的に知られている甘い貴腐ワインとは異なります。貴腐発酵が不均一にならないように工夫したり、香りがカビ臭くならないように実験を繰り返しています。 そのほか、ハスカップの搾りかすが入ったパウンドケーキを試作して江別市内の飲食店で提供することも検討しています。 大学院に入って1年が経ちましたが、商品化までスムーズに実現することができました。ご指導いただいている山口昭弘教授に本当に感謝しています。 今後は、栄養士の資格を活かしながらハスカップ残渣の栄養成分やカロリーなどの分析を進め、データ化するような取り組みに携わりたいと考えています。そのことが実現すれば、ハスカップ残渣がさまざまな商品に使用されることがスムーズになると考えます。健康食品、飼料、薬学などもっといろいろな分野で活用されることを期待しています。

試験醸造中のハスカップワインを確認する前野さん

左:ハスカップの冷凍果実、右:ハスカップの搾汁残渣


ラベルデザインを担当した西村有未さん(食と健康学類3年)のコメント

農食環境学群 食と健康学類3年 応用微生物学研究室
西村 有未さん
 (北海道帯広三条高校出身)   最初に、前野さんと「どういうラベルを作りたいか?」ということについて時間をかけて話し合いを行い、前野さんの意図や思いを反映することを第一に考えました。 まず、星空が好きということで、ベースとなる背景に星空を、ハスカップの後ろには月を模した円形を入れました。ハスカップの果実を中心に据えることはもちろんですが、果実を1つにするか2つにするかも検討し、文字よりも絵が大きく目立つように考えました。さらに、ラベル下部の左右にハスカップの花を配置し、その間に一番星を描きました。最後に、全体的なデザインをステンドグラス調にしました。酪農学園大学で礼拝が行われる黒澤記念講堂にステンドグラスがあるためです。大まかな配置が決まった後も加工を何度も行って試行錯誤を繰り返しました。前野さんから「思いを120倍盛り込んでくれた」と喜んでもらえました。 大学に入学してから今回のデザインが3本目のボトルデザインとなりました。自分が関わったデザインが採用された製品を手にすることができて、やりがいを感じるとともにとてもうれしく思っています。

2018年度ワイン完成報告会

本学オリジナルワイン2018

ROWP豊沼ヴィンヤード


◆2018酪農学園大学ワイン完成報告会を開催(西村さんのラベルデザインのコメント掲載)  https://www.rakuno.ac.jp/archives/4640.html

黒澤記念講堂のステンドグラスと一緒に

はすかっぷクルゼイワインと前野奈緒子さん



関連企業・団体リンク ◇ばんけい峠のワイナリー(有限会社フィールドテクノロジー研究室)  https://sapporo-bankei-winery.jimdofree.com ◇有限会社はすかっぷサービス  https://haskap.jp ◇公益財団法人 道央産業振興財団  http://dohgi.tomakomai.or.jp   【参考】関連記事 ◆2021.02.26 【全私学新聞】サークルで育てたブドウのワイン/原料に赤ビートやホエイ 大学内で進む独自の酒造り(食と健康学類 山口昭弘教授、阿部茂教授、ワインサークルROWP)  https://www.rakuno.ac.jp/archives/13666.html ◆2021.01.20 本学食と健康学類の亀田くるみさんが世界初となるホエイ酒の製品化に取り組んでいます  https://www.rakuno.ac.jp/archives/13122.html ◆2020.11.27 酪農学園大学ワイン2020完成報告会を開催  https://www.rakuno.ac.jp/archives/12408.html ◆2020.10.19 本学ワインサークル“ROWP”が今年度のブドウの収穫を実施  https://www.rakuno.ac.jp/archives/11648.html ◆2020.06.09 世界初! 赤ビートワインを学内の野生酵母を使って製品化に成功!  https://www.rakuno.ac.jp/archives/10185.html