教員・研究室
| 研究室・ユニット名 | 疾患モデル学 |
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| 研究テーマ | 遺伝子改変マウスを用いた精子形成メカニズムの解明 |
| 学びのキーワード | 精子形成ゲノム編集遺伝子機能解析男性不妊 |
| 教育・研究への取り組み | 皆様は「精子の絵を描け」と言われたら描くことができるのではないでしょうか?それは精子がそれだけ特徴的な形態をしているということです。精子はもともと一般的な形状の円形の細胞だったものが,徐々にその形態を変化させることであの形になります。私はどのような分子メカニズムによってこのようなドラマティックな形態変化が生じるのか,ゲノム編集技術により作製した遺伝子改変マウスを用いて解析をしています。 |
| 受験生へのメッセージ | 獣医師は小動物臨床や大動物臨床だけでなく,研究分野においても重要な役割を担っています。このページを見ている学生の方から1人でも実験動物医学専門医として動物福祉を守るスペシャリストとなるだけでなく,さらに動物施設の管理・運営もでき,一線級の研究もできるスーパー獣医師が生まれてくれたら嬉しいです。きっとなれます。 |
研究シーズ
| 研究キーワード | 精子形成 遺伝子改変マウス |
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遺伝子改変マウスの作製と精子形成メカニズムの解析
研究の概要・特徴
精巣を顕微鏡で観察すると円形の生殖細胞から成熟精子(図1)まで,形態が経時的に変化していく様子を確認することができます。しかし,その一連の変化に関わる因子,すなわちどのタンパク質が精子形成に関与しているのか,どの過程でタンパク質は作用しているのか,またそれらがどのような機能を持っているのかについては,未解明の部分が多く残されています。
我々の研究目的は,精子形成(円形の精子細胞がオタマジャクシ状の精子へと変化する過程)に関わるタンパク質とその機能を明らかにすることです。そのために,精巣で高発現する遺伝子を欠損させたノックアウトマウスを作製し,精子や精巣を詳細に解析します。これにより,欠損させた遺伝子がコードするタンパク質の機能を解明することを目指しています。
ノックアウトマウスの結果はさまざまで,正常マウスとほとんど変わらない場合もあれば,たった1つの遺伝子を欠損させただけで精子に形態異常が生じたり,精子が全く形成されず不妊となったりすることもあります。これらを電子顕微鏡や質量分析などの機器・技術を用いて詳細に解析することで,タンパク質(遺伝子)の役割を明らかにすることが可能です。
私たちの研究室では,世界で唯一の独自の遺伝子改変マウスを自ら作製し,解析まで行う強みを持っています。そのため,自分のやった実験がまだ誰も知らない新しい成果に直結する可能性があり,これこそが私たちの研究の大きな醍醐味と言えます。
主な業績
1. Shimada K, Park S, Oura S, Noda T, Morohoshi A, Matzuk MM, et al. TSKS localizes to nuage in spermatids and regulates cytoplasmic elimination during spermiation. PNAS. 2023;120(11):e2221762120. doi: doi:10.1073/pnas.2221762120.
2. Shimada K, Ikawa M. CCDC183 is essential for cytoplasmic invagination around the flagellum during spermiogenesis and male fertility. Development. 2023;150(21):dev201724. doi: 10.1242/dev.201724.
3. Shimada K, Park S, Miyata H, Yu Z, Morohoshi A, Oura S, et al. ARMC12 regulates spatiotemporal mitochondrial dynamics during spermiogenesis and is required for male fertility. PNAS. 2021;118(6):e2018355118. doi: 10.1073/pnas.2018355118.
産業界等へのアピールポイント(用途・応用例等)
私たちはマウスを使って精子形成に関わる遺伝子を調べていますが,そこで見つかった遺伝子の多くはヒトでも同じように働いています。つまり,私たちの研究成果は,将来的に男性不妊で悩む方々の治療法につながる可能性があります。
さらに,精子形成に欠かせないタンパク質をヒトで特異的に,しかも不可逆的に働かなくすることができれば,受精できない精子をつくり出せます。これは「男性用の避妊薬」の開発に直結します。現在,世界では年間 約1億2,100万件の「望まない妊娠」があると国連人口基金(UNFPA)は報告しています。その大きな原因のひとつが,手軽に使える男性用避妊薬が存在しないことです。
私は,以前の研究でTSKSというタンパク質と,そのリン酸化酵素であるTSSK1やTSSK2の研究を行い,これらのタンパク質が精子から余分な細胞質を取り除き,スリムで流線形の精子をつくることに必須であることを明らかにしました(図2,Shimada et al., PNAS, 2023)。この時は単なるメカニズム解析をしただけでしたが,この発見はこれだけに留まるものではありませんでした。他の研究機関の仕事になりますが,現在,TSSK1およびTSSK2は実際に男性避妊薬のターゲット候補として研究が進められています(Male Contraceptive Initiative 参照)。我々はTSSK以外にも精子形成に関わる分子を新たに同定し続けていますので,これら一連の成果が,将来的な「手軽に使用できる男性避妊薬」の実現や「男性不妊の治療法」につながることを夢見て研究を進めています。